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公益財団法人研医会

研医会診療所 

漢方科(保健医療機関)


【診療】

曜日・時間、休診日などは漢方診療所TOPページをご参照ください。

【診療科目】

漢方一般(保険診療)

【自己紹介】

1996年、香川医科大学(現・香川大学医学部)卒業。
麻酔科、外科、形成外科を経て、中国広州の曁南大学に留学。
2006年、同大学医学院中西医結合臨床専業碩士課程卒業。
日本中医学会会員。


 
【コラム】


 
お灸のはてな?

 お灸は古くから、庶民の身近な養生法のひとつとして親しまれてきました。脚のだるさや肩こり、冷え性といった不調にも、また健康な方が未病の対策に行うこともあります。

 昨今では直接皮膚に触れないタイプのいろいろなお灸グッズがあり、手軽にできるよう工夫がされており、若い女性向けのお灸の本さえありますね。初心者の方も、最初は診療所で経験し、お灸の良さをわかっていただいて、慣れてきたらご自宅でなさるといいでしょう。

艾灸座(がいきゅうざ)1

艾灸座(がいきゅうざ)2

Qお灸はどんな時にしますか?

―お灸にはツボの深いところまで温める作用があり、冷えや虚証(虚=不足:元気や栄養などが不足していること)、慢性病の治療に適しています。

Qツボ(経穴)がわからなくても大丈夫ですか?
―最初からツボにこだわる必要はありません。自分の体を押してみて、痛いところ、気持ちいいところなど、とにかく気になるところにしてみることです。

Qどんな道具を使いますか?

―私の外来では、ツボにピンポイントでお灸をしない場合、温灸器というものを使っています。写真のように容器の中にお灸の艾(もぐさ)を入れて点火し、皮膚の上に置きます。これだとお灸が直接皮膚に触れる心配がなく、熱く感じたら自分で位置をずらしたり、距離を離したりして調節できます。ツボが分からなくても、大体でいいですから、気になるところに置けば大丈夫です。

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お灸の作用

 中医学の古典(医学入門・鍼灸)には、薬(の効果)が及ばず、鍼(の効果)が到らないものには、お灸が必須だと書いてあります。

 今回はお灸の主要な四つの作用についてご説明いたします。

(一)温経散寒~経絡を温め、寒を散ずる。

 経絡というのは中医学の概念で、気と呼ばれる生命力の働きと、血の通り道のことです。これが冷えると、気血が滞って流れが悪くなってしまいます。中医学ではよく、「不通則痛」(通じざればすなわち痛む)という言葉が使われます。気血が通じないと痛む、逆に通じていれば痛まないということです。

 例えば冬になって冷えると古傷が痛む、という話をよく聞きますね。傷が治るときは、たくさんの繊維組織が接着剤やセメントのように傷を塞ぐために産生され、瘢痕組織を形成します。これが古傷です。それは丈夫ですが硬く、毛細血管が入りこみにくいために、健康な組織よりも血管に乏しく、したがって血流が乏しい組織になってしまいます。これが冷えると血管が収縮し、容易に血行障害を来すので、「不通則痛」の法則通り、痛みが生じるのです。

お灸は温めて冷えを取り除くことで血行障害を改善し、痛みを軽減するのです。

(二)扶陽固脱

 漢方の古典では、以下のように書かれています。
「真気虚すれば人すなわち病み、真気脱すればすなわち人死す、命を保つの法、灼艾第一。《扁鵲心書》」
生命力の働きをする「気」が不足すると人は病気になり、「気」が体から離脱してしまうと人は死ぬ。命を保つ方法は、(よもぎ『艾』を燃やしてする)お灸が第一である、という意味です。

またこうも書かれています。

「下利、手足逆冷、無脉者、之を灸す。《傷寒雑病論・辨厥陰病脉症并治》」

下痢、手足が(正常な温かい状態に反して)冷たい、脈が触れないほど弱いといった者には、お灸をする、という意味です。

これらから分かるのは、体を温めて生命活動を活発にする「陽気」が、不足したり、落ち込んだり(不活発になったり)、離脱しようとする危機には、皆お灸を用いて虚脱しかかっている「陽気」を助けることが出来る、ということです。

臨床では、脱症(凡そ生命活動に必要な要素が虚脱した状態)や中気(胃腸の消化吸収力、中はお腹の「なか」です。)の不足、「陽気」の落ち込み(不活発)による尿漏れ、脱肛、子宮脱、不正性器出血、帯下(こしけ)、長引く下痢、痰飲(痰やその他浮腫など体内の不健康な水分貯留)などの治療に、お灸が多用されます。

以上のように、お灸の「扶陽固脱」作用とは、「陽気」をたすけ、虚脱しないように固めるということです。

 今回はいろいろな「気」が出てきました。「気」については、それだけで一冊の本が書けるほどの内容になるので、眼には見えない生命力の働き、という大体のイメージを持ってくださればいいと思います。

(三)消瘀散血

『霊枢』という古典には、脈中の血が凝って留まり止っているときは、火でこれを整えるのでなければならない、と書いてあります。中医学では、「気」は「血」を統率するものと考えます。火熱を用いる灸には「気」を温める効果があり、「気」が温まって通りがよくなると、「血」の通りもよくなります。

(四)防病保健

 隋代の『諸病源候論・小児雑病諸疾』には「河洛間(黄河~洛河;現在の河南省)の土地は寒く、子供が引き付けの病(発作性の痙攣)になりやすい。そこで俗に、子供が生まれて三日目に逆灸して防疫する。」と書いてあります。逆灸とは、病気になる前から、予防として養生のために行うお灸です。

 また唐代の孫思邈は、呉蜀(現在の江蘇・浙江省と四川省)の地へ派遣される役人は、身体の2~3個所へ常にお灸をすることで、風土病・伝染病の毒気から身を守る、という内容を記載しています(『備急千金要方・鍼灸上』)。

 『扁鵲心書・須識扶陽』には、「病気でない時に、常日頃「関元」、「気海」、「命門」、「中脘」にお灸をしておけば、長命を得るとまでは言わずとも、百年の寿命を保つことが出来るだろうと書かれています。百歳でも充分長命と言えると思いますが、昔の人の考える長命とは、一体どれぐらいだったのでしょうか。

 『医説・鍼灸』には、「足三里」へのお灸が病気の予防と健康の保持に有効だと書かれています。「足三里」といえば、松尾芭蕉が「奥の細道」の冒頭で、「股引の破れをづづり、笠の緒付けかへて、三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて、・・・」と書いていますが、この「三里に灸」というのは、まさに「足三里」にお灸をして、長距離の徒歩の旅の準備をしたということだと思われます。これも予防的なお灸の好例です。

 現代中国でいわれる「保健灸」も病気にならないうちにお灸をすることで、「正気」(体が持っている環境の変化に対する調節能力と疾病に対する防衛能力)を呼び醒まし、抵抗力を増し、精力を充実させて、健康で長生き出来るようにすることなのです。

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