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このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は [眼科諸流派の秘伝書(9) ]

 『八幡流眼病極秘書』 と 『播州谷川鴻先生眼科秘効筌』 です。

財団法人研医会図書館 利用案内

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17.八幡流眼病極秘書(眼科良方秘伝集)

 八幡流眼科は何時頃何人によって興されたのか明らかではないが、『八幡流眼病極秘書』はその眼科を伝えるものと思われるのでその資料として紹介する。

 『八幡流眼病極秘書』は95葉、 全1冊、 毎半葉10行、桂香堂蔵書刷用箋に片仮名交り和文にて墨書された写本であるが、冊子半ばにはその相伝者と思われる名前が以下のように連記されている。

  雲州別當御夢想 長○住 永信
    同 州 冨永
    天王寺 宗信法印
    肥陽住    道感斬
    柳河住 黒木小左衛門
    同 住 大城又左衛門
    児玉金左衛門
    浦野七兵衛

 この記述から推察すると八幡流眼科の興りは雲州別当御夢想に関係がありそうである。しかし、本書の末葉には明和3年(1766)永井元長の以下のような本書の来歴が識されている。

  『右眼科之書者舎弟星野善兵衛行省東武在務之時自宝暦五乙亥年至翌年同六丙子都築善平治忠淡丈ヨリ思借之写置之其書二巻有之一冊者眼目之図形ホ有之其書ハ行省友生高橋要助孝妙生ヲ憑テ写取之今此書者行省自筆二写置之者也、都合眼目之書二巻也、右二巻之書小生又行省息男家姪星野伴介貞行生借テ謄写之者也、此書元本ニハ題号モ不見今小生私二眼科良方秘伝集卜題号尤何レヲ上下卜云コトヲ不知ドモニ冊有之ニヨリ上下卜記置也、小生老眼冬夜於灯下禿筆ヲ走テ濫書者也、后日得間暇而希浄書而己本書二冊即家姪貞行生二返ス.     明和三年丙成龍集冬十一月良日 永井元長識』

 つまりこの写本は星野善兵衛が宝暦5年から同6年にかけて東武に在務の時、都築善平の所蔵する元本を借り受けて写して置いたもののごとく、その後あれこれいきさつはあったが明和3年永井元長が書写相伝したとみられる。元本には書名も付けられてなかったので『眼科良方秘伝集』とし、 2冊本であったのでとりあえず上下とした、という様子である。ちなみに、文化3年(1806)4月11日、桂香堂門人、濱野直と識した本書と同文『眼科良方秘伝集』(反古奄用箋使用)の別本(1冊)もある。

 『八幡流眼病極秘書』(眼科良方秘伝書)は眼病治療のみを記述した秘伝書であるが、その内容は眼の治療法全般と薬種能毒および薬性についてのべたもので、その主な項目をひろってみると以下のものが挙げられる。

  1) 眼目見様之○(=古の下に叉)
  2) 五輪所属之図
  3) 熱金、温金之次第
  4) 指薬及掛薬之次第
  5) 内障見様之夏
  6) 針之蔓
  7) 針之名之次第
  8) 眼目実法
  9) 眼中二五蔵之蔓
  10) 洗薬
  11) 外障
  12) 内障
  13) 眼日禁好物之集(禁物、 好物、 禁物ニテモ少ハ不苦品)
  14) 薬種能毒及調ヨウ(竜脳他51種)
  15) 眼病証(絵入、青内障他30種)
  16) 掛薬、11薬等薬物処方
  17) 当流石薬之性

 このように本書の内容は他の諸流派の眼科書と同様、漢方眼科書によるものである。唯本書においてはのことについても記述されているが、針の名の次第の項では使用する01の名前を1番の針:クウリン針、 2番の針:相の針、 3番の針:向の針、 4番の針:人見の針、 5番の針:スマシの針、 6番の針:天丼崩の針、 という様に1番針から6番針を使い分け、その名称を挙げている。

 また、外障、内障の項には八幡流極秘の薬方が挙げられ、例えば、一切の外障を治す薬として、八幡散、金龍丹、血順円、丹花散、龍脳散、また、内障のすべての病に用いるものに内障散、龍脳円等が挙げられ、その調合の仕方を記している。

 このように『八幡流眼病極秘書』(眼科良方秘伝集)は八幡流眼科の眼科治療法を伝えたもので、その元本は宝暦年間以前より伝えられた秘伝書かと考えられる。しかもその眼科は雲州別当御夢想に始まるごとく推察されるが、本書の内容からして中国明代の眼科書から学ばれた眼科ではないかと思われる。八幡流という 一流派の由来については不詳であるが、少なくとも宝暦年代以前に山陰地方に興り次第に各地に広まったものと想像される。

 

 


18 播州谷川鴻先生眼科秘効筌

 


 播州というと、かの赤穂義士でよく知られた、瀬戸内海に面した播磨国(現兵庫県地方)であるが、『眼科秘効筌』はその播州の谷川鴻という人の眼科を伝えたものと思われる。しかし、 この眼科の興りについては未詳である。ここに掲出の写本は江戸時代以降に書写されたものであるが、谷川鴻流眼科の一端を窺い知る資料として紹介するものである。

 本書は24葉、全1冊(24×16cm)、 2巻よりなり、本文は片仮名交名りの和文で墨筆されている。巻1には眼病証、巻2は目薬方、 目見様の事、眼目療治の次第等について記述されている。

 本書の眼病証の記載方法は他の諸流派の秘伝書に比べて簡潔で、病名と薬の関係をわかりよく書いている。

 その1例を白内障についてみると

  白内障始、 絵図 内薬 明晴散
    指薬 五金膏、熱金ヲ當テヨシ、
  白内障、 絵図 内薬 三黄湯
    指薬 時二随而可指可鍼立

 この様に最上段に病名、二段目に眼病態絵図、三段目に内薬、指薬の別、四段目に内薬、指薬等の薬名を記載している。挙げられた眼病名は以下の52種類

  病眼、白内障始、血道之眼、中障、○(=やまいだれに玄)眼、赤内障、青内障、黄内障、白内障、外障、黒内障、俄不見眼、白星客霊、星刺篠推、指膜、鹿膜、山根膜、烟膜、分出膜、山本膜、 藤膜、 縛膜、 別膜、 峯雲膜、 浮雲膜、 閉膜、○(=虫の上にノ)膜、眼量、大雨○(=虫へんに虫)、佛罰、神罰、眼蛭、眼瘡、打眼、眼蛸、血眼、飛火眼、疹瘡眼、疵眼、雀眼、蟹眼、中風眼、俄脱出眼、 常闇眼、 禾入眼、常泪垂、小兒瘡眼、
小児打眼、釣膜、簾膜、外障始、重熱等である。

 ただこの眼病証の中に仏罰、神罰という眼病名が挙げられ、 これに用いる内薬、指薬はなく、両者とも"不可療治"と記されている。本書巻2、" 目見様之事"の項に、「天罰ハ上ヲ視ルニ白ク、下フ見ルニ黒クナル也、神罰 ハ目蒼ノ様ニシテ黒目ノ間黄ナルモノナリ」とあり、仏罰、神罰、天罰等という眼病名が挙げられていることは興味深いことである。

 この様に本書は52種類の眼病とその治療に用いられる内薬、指薬を示し、 目薬方(青梅散他26種の処方)、 目見様の事、眼目療治の次第および灸法等を記述したものであるが、眼目療治の次第の項をやや詳しく述べている外は、極めて簡略な記述である。谷川流眼科の眼病治療は内薬、指薬を中心に行われた様である。

 

 

(1982年 8月 中泉、中泉、齋藤)

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