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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (32)

41.『眼科集要折衷大全』です。

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休館日:

木・土・日・祝

 

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文庫の窓から
眼科諸流派の秘伝書(32)
41.眼科集要折衷大全

 わが国におけるオラング医学は安永3年(1774)杉田玄白らによって訳出された『解体新書』により基礎ができ、柚木太淳の『眼科精義』や衣関順庵の『眼目明弁』杉田立卿の『眼科新書』等が著わされるに及び、漢蘭混合眼科が漸く試みられるようになった。文政6年(1823)シーボルトの来日により、高良斉、土生玄碩、馬嶋円如等がその直接、間接の指導を受け、漢蘭混合眼科が実地に行われるようになった。こうしてオラング眼科を採り入れて著わされたものに、 山田大円の『眼科提要』(1817)、樋口子星の『眼科撰要』(1826)、土生玄昌の『銀海療法』、あるいは本庄普一の『眼科錦嚢』4巻(1831)、同じく『続眼科錦嚢』2巻(1837)等があるが、その正続『眼科錦嚢』は漢蘭折衷眼科を最も詳細に記述していたものとして知られている。

 延文2年(1357)清眼僧都によって再興された馬嶋明眼院(寛永9年 寺号賜る)はその法灯第28世馬嶋円如僧正(字 忍甲、号 復明堂、1802〜1855)が立つにおよんで、流祖清眼僧都以来引き継がれた中国(明代)眼科を主軸としたいわゆる馬嶋流眼科の学風が一変され、治療法や器械に改良が加えられ、漢蘭折衷による実験重視型の眼科へ移向して時勢の潮流に遅れず当時日本眼科の要な位置を保った。こうした在来馬嶋流限科の改変によって著わされたのが馬嶋円如撰述の『眼科集要折衷大全』である。

 本書は全7巻4冊(25×17.5cm)よりなり、薄用紙に漢文体にて筆写されている。各巻毎に目次を附しているが巻1の始めにのみ眼球略図11図、眼球略説および五輪八廓弁を所載している。これは杉田立卿訳述『眼科新書』(文化12年刊)に収載された略図、略説と同じものである。

 各巻に挙げられた目次を抄記すると以下の通りである。

 巻1:眼瞼 ○(やまいだれに息)肉:鷄冠蜆肉他10症、爛眥:目赤爛眥他8症、眥瘍:瞼生風粟他9症、瞼唇?血:瞼停?血他3症、睫毛倒刺:倒睫拳毛他2症、漏晴:積熱必漬他10症、目浸:迎風冷涙他9症。

 巻2:雀目:陽哀不能抗陰之病他11症、停水爵火:白渋眼他9症、浮腫:状若魚胞他5症、頭風:陽邪風他12症、晴痛:赤熱他3症、 目癢:癢如蟲行他2症、 目黄:目晴通黄他2症、血眼:血為邪凝他1症、 目青:血凝不行他4症、物傷:飛塵入眼他13症。

 巻3:小児患眼門―驚風:轆轤轉関他2症、小児通晴他9症、胎風:胎熱目閉他3症、潰毒、痘毒:濁害清和他2症、疳傷:深疳為害、雑病:熱眼他2症、婦人血症:室女逆経他4症、因風:風牽○(過のしんにゅうをとった字)斜他8症。

 巻4:時復:時復他2症、羞明:怕熱羞明他1症、?涙:?涙粘膿他3症、熱及胞瞼:牌肉粘輪他6症、紅○(醫の酉を目にした字)飛血:赤脈貫晴他18症、熱眼感胃風熱:天行赤眼他2症、暴赤:暴露赤眼生○(醫の酉を目にした字)、 目赤熱胃害:淫熱反剋、 目病寒熱:火脹大頭他2症、熱○(醫の酉を目にした字):血○(醫の酉を目にした字)包晴他12症。

 巻5:痛損眼:膜入水輪他20症、冷○(醫の酉を目にした字):円○(醫の酉を目にした字)障他12症。

 巻6:内障門―将変内障:眼瞼垂緩他9症、妄見:坐起生花他14症、 目昏:謄視昏渺他14症。

 巻7:内障門―暴盲。白風障:絲風内障、棗花内障、散○(醫の酉を目にした字)内障、横○(醫の酉を目にした字)内障、横開○(醫の酉を目にした字)内障、滑○(醫の酉を目にした字)内障、渋○(醫の酉を目にした字)内障、氷○(醫の酉を目にした字)内障、仰月内障、偃月○(醫の酉を目にした字)内障、白○(醫の酉を目にした字)黄心内障、浮○(醫の酉を目にした字)内障、○(醫の酉を目にした字)内障、大雲○(醫の酉を目にした字)内障、小雲○(醫の酉を目にした字)内障、小円○(醫の酉を目にした字)内障、混晴内障、円○(醫の酉を目にした字)内障、如銀内障、如金内障、陰弱不能配陽、脳流青盲。青風:五風変内障、青盲、青盲有○(醫の酉を目にした字)、青風内障、緑風内障。黒風: 黒冰凝○(醫の酉を目にした字)、金星○(醫の酉を目にした字)内障、黒円○(醫の酉を目にした字)内障、黒風内障、黒盲、鳥風内障。

 この目次に見られる様に眼病分類は未だ解剖的分類には及ばず主として證候によりなされ、各症毎に『龍木論』『銀海精微』『審視璃函』『眼科全書』『約庵眼科全書』『異授眼科』『原機啓微』『青嚢完璧』『聖済総録』『病源候論』『外科正宗』『医宗金鑑』『聖恵方』『蘭室秘蔵』『幼々新書』 『幼々集成』『神験方』『粟爾雅翼』『證治準縄』『古今医統大全』『證治大還』『鴻飛集』『得効方』『素間霊枢経』『医学網目』『張氏医通』『外台秘要方』『證治要訣』『景岳全書』『医学入門』『名医類案』等多数の中国古代よりの医書により枢要な異説を集
録し、更にこれに自説を附記している。

 この様に本書はこれまでの馬嶋流眼科の秘伝書と趣を異にし、もとより内容的に漢方眼科を主軸としながらも蘭方異説を極力取り入れることに努めた漢蘭折衷眼科書ということができる。こうした馬嶋流眼科書の内容からみると、馬嶋明眼院には本書を境にそれ以前の漢方眼科の時期と馬嶋円如が両3年長崎に遊学(天保年代?)して蘭方眼科を習得して帰ってからの漢蘭混合眼科の時期があったとみることができる。こうした意味から本書
は馬嶋流眼科の秘伝書時代から漸く脱秘伝書の時代へ切替へられた第一書ということができる。そしてそれは時代的要請から生れたものであると同時にわが国眼科学の進歩に連なったものと思われる。

 馬嶋円如の著書として『増損清眼録』(1冊)『金箆大成』(1冊)などが知られている。『金箆大成』第1巻は

痣肉:眼胞菌毒、鶏冠蜆肉、胞瞼附着、 馬蝗積、 珠管。膜○(醫の酉を目にした字):黄膜上冲、黄膜下垂、黄膜上充、肺?努肉攀晴、奇経客邪。爛眥:眥帷赤爛、迎風赤爛、赤爛、風弦赤爛 爛弦風。眥瘍:粟瘡、椒瘡、瞼生風粟、瞼生倫針、鍼眼、胞肉生瘡、実熱生瘡、眼丹、目○(やまいだれに尤)、牌生疼核。瞼?:瞼停?血、 目瞼腫硬、胞肉膠粘、両瞼粘晴、胞肉膠凝、血?脾貶、牌肉粘輪、牌翻粘潰、風牽出瞼。倒睫拳毛:倒睫潰毛、倒睫牽摩、拳毛倒睫、内急外馳、牌急緊小、睫毛退刺。涙漏:積熱必潰。藪漏、漏晴膿出、 膿漏、漏晴着、外漏。液漏:大眥漏、小眥漏、偏漏、 正漏、漏晴膿血、陰漏、陽漏。目浸:迎風冷涙、 冲風涙
出、 目涙出不止、無時冷涙、迎東、迎西、充風涙出、迎風熱泪、無時熱泪。

 以上9症63道について記述されているが、『眼科集要折衷大全』を修正補足したもののごとく、両書にはともに精粗の部分が認められる。円如は臨床的によく遭遇する眼病を選んで日常実際に役立つ眼科書を作ることを試みたものと思われる。

 このように『全箆大成』は『眼科集要折衷大全』の修正異本とみることができる。

 

 

 

 

 

(1984年8月 中泉、中泉、齋藤)

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