慶應義塾をたてた福澤諭吉が、青少年に英米の物理学の基礎を教えようと書いた書物。凡例に、
一、 此書 翻訳の体裁を改めて 専ら通俗の語を用い 且つ 窮理の例を挙げて 図を示すにも 多く日本の事柄を引きたるは ただ 児女子に 面白く解し易からんことを願うものなり。
一、 右の如く 日本の事柄を引くといえども ただ 西洋の品と日本の品を入替たるのみにて 其理に至りては 毫も私の意を交えず 悉く英吉利す亜米利加の原書に出点(いでどころ)あり 引書の目録 左の如し。
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英版 |
「チャンブル」窮理書 |
1865年 |
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亜版 |
「クワッケンボス」窮理書 |
1866年 |
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英版 |
「チャンブル」博物書 |
1861年 |
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亜版 |
「スウィフト」窮理書 |
1867年 |
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亜版 |
「コル子ル」地理書 |
1866年 |
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亜版 |
「ミッチェル」地理書 |
1866年 |
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英版 |
「ボン」地理書 |
1862年 |
右の外 英亜雑書数部 (注・かな遣いは変えてあります)
とあり、その姿勢が表されている。
内容は、挿絵から推察できると思われるので、以下に列挙する。
第一章 温氣の事 (うんきのこと)
(挿絵)
・ 太陽光を凸レンズで集め、その焦点で物が焼けるようす
・ なだれ
・ 焚き火
・ 鍛冶屋
・ 鉄なべのつるに籐が巻いてあること
・ 火消し人足の刺し子の着物
・ 猿カニ合戦の栗がはじけたところ
・ 冷えた鉢に熱いものを入れると割れること
・ 黒い覆いと白い覆いをかけた鉢の雪のどちらが先に融けるか
・ なべの底は黒いほうが倹約になる
・ 寒暖計
第二章 空気の事
・ 空気の層(上空にいけばいくほど薄い)
・ スポイドの原理
・ 水鉄砲
・ ポンプ
・ 水銀柱
・ 晴雨器
・ 茶碗を手のひらに吸い付ける
・ 霧吹き
第三章 水の事
・ やかん
・ 噴水
・ 手桶を使った噴水の実験
・ 樽を使った噴水の実験
・ 山の湧水の断面図
第四章 風の事
・ 廻り燈篭
・ ろうそくを使った暖かい空気と冷たい空気の実験
・ 海風陸風
・ 大阪安治川出船の図
第五章 雲雨の事
・ 虫干し
・ 鋳物師
・ 蒸露鑵(らんびき=蒸留装置)
・ 西洋のらんびき
・ 高い山の雲
・ 宇治川の水
・ 焼酎
・ 打ち水
第六章 雹雪露霜氷の事
・ 秋の草花
・ エジプト国の図、ピラミッド
・ 霜害よけの焚き火
・ 雪の結晶
第七章 引力の事
・ 振り子
・ 太陽と地球
・ 天体望遠鏡
・ 顕微鏡
第八章 昼夜の事
・ 太陽・地球・月
・ 地球儀
・ 地球の昼と夜
第九章 四季の事
・ 太陽と四季の地球
第十章 日蝕月蝕の事
・ 太陽・月・地球(日食・月食の説明)
・ 太陽・月・地球
・ 日蝕の図
・ 月蝕の図
今だったら、小学校高学年の生徒が習う内容程度のことだが、当時は何歳くらいの者に向けた本だったのだろうか。挿絵は身の回りにあるものを描いていて、読む者が日常の暮らしの中で見ることと、物理学を結びつけて考えやすくしている。
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