研医会通信  37 2009.6.3

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今回は [眼科諸流派の秘伝書(3)]

  『極撰流眼目之治方』 と 『東雲流眼科秘録』 と 『榎並流秘伝目薬一流』です。

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眼科諸流派の秘伝書(3)

『極撰流眼目之治方』 ・ 『東雲流眼科秘録』 ・ 『榎並流秘伝目薬一流』

 

5.極撰流眼目之治方

 眼の治療方にはいろいろあるが、江戸時代の眼科諸流派の間では、それぞれが一流一派を誇る秀れた技量、得意とする治療方をもっていた。例えば真嶋流においては内障の治療方が優れているとか、あるいは夢想流では外障の治療方が他の流派より勝っていたといった具合である。
 ここに掲出した「極撰流眼目之治方」は真嶋流および夢想流両流派の極意を抜粋して一つの流派の秘伝書としてまとめ、極撰流と名づけて相伝されたもので、巻尾の識語には元和二年(1616)卯月吉日、世戸口拾兵衛永祐とあり、世戸口拾兵衛がその門人某氏に相伝されたものと思われる。
 この秘伝書は15葉全1冊より成るが、記述内容は眼疾の病証をのべ、その薬物療方を主に記したものである。また、「養生之口伝」の処では青内障、赤内障、黒内障、白内障等の治療方を挙げ、薬物療方と針の用方をのべている。
 この様にこの流派は他の流派の優れている点を取り寄せ、それを以って吾流派の特技として一流一派を興して来たものと思われる。

 


6.東雲流眼科秘録
 『東雲流眼科秘録』(とううんりゅうがんかひろく)は『眼療東雲秘』あるいは『眼目東雲秘録』等と写本によって異なる書名が付けられているが何れも眼科馬嶋流、馬嶋大光坊の家伝として伝えられているものである。

 『東雲流眼科秘録』と『眼療(目)東雲秘録』とは内容的には大同小異であるが、記述の順序や目次のとり方が多少異なる。筆者の手許にある資料にょって両者の目録を比較してみることにする。

 『東雲流眼科秘録』
巻上 眼疾見定書(眼病論): 五行配営図、八廓易配、諸眼図(84図にそれぞれの病名と治療方を簡単にのベる)。
巻中 處方部38種、當家の極秘方7種
巻下 経剱(験)大秘方: 家伝12方(掛け指しの点薬)、家伝6方(洗い蒸し点薬)、眼病目名録102種の疾病。
 
 この内次の15眼病の治療が肝要であるとしている。

  1. 内障(青、 自、黄は治あり、黒、赤は難とす)
  2. 外障(瞳子根あれば難とす、無いものは皆治あり)
  3. 虚限
  4. 中障
  5. 上衝眼
  6. 輪月眼(日の輪)
  7. 風眼
  8. 焼眼
  9. 目毛(逆毛、突毛)
  10. 打突眼
  11. 血眼 (経膜、諸膜)
  12. 諸星
  13, .瘡目
  14. 爛目
  15. 目菌、目蛭、経血目


 

 

東雲流眼科薬性論: 

 

竜脳散他39種、洗蒸薬12方、当家(目嶋美濃守)極奥の秘方(杏仁四物丸、五物大黄湯、土茯苓五宝丸、梅肉丸、三味止痛湯)

 

 

眼科点方定極: 

 

辰砂散他80余種

 

『眼療東雲秘録』

  前文(眼病論)、目録、五輪図、八廓図
  巻1.  眼目図経(70図、 各図に病名と治療方を付す)
  巻2.  薬性論(竜脳他43種)
  巻3.  鍼(鍼の用方等)
  巻4.  内薬(加減参蔦湯他9種)
  巻5.  点薬(辰砂散他70種)

 この様に『東雲流眼科秘録』と『眼療東雲秘録』は内容的には大差はないが、装丁上前者は上中下の3巻全1冊よりなり、東雲流の極奥の秘方を特記し備忘録的秘伝書であるのに対し、後者は巻1より巻5にわたってよく整理して記述されている。つまり「東雲流眼科秘録」も『眼療(日)東雲秘録』もともに馬嶋大光坊家伝として後世に相伝されたものであり、書名は異なるが両者とも馬嶋流の流れをくむ同一秘伝書とみることができる。

 

7.榎並流秘伝目薬一流
 榎並流は和泉国(現大阪府南部)平野地方に興ったといわれている。この流派の秘伝書に榎並道白筆『眼目養生之次第』寛永6年(1629)写、『夢想流目伝之内秘薬』(筆者、年代不詳)等の写本が伝えられている。

 ここに掲げた写本、『榎並流秘伝目薬一流』は元和元年(1615)8月、高田宗玄入道、奥野祐斎、菅谷又右門より茅野茂左右門に相伝された秘伝書である。この秘伝書は上、中、下巻よりなり、上巻は内経の説、蒸薬のこと、懸薬のこと、拾の禁制のこと、好物のこと、禁物のこと、中巻には眼目見様のこと、内薬のこと、下巻は蒸薬、懸薬、スミ薬等について記述してある。

 上巻に所載の「禁物のこと」には次の10行の戒めが書かれている。

  ?(ヨウ):  たわむれること
  酒:  酒を飲むこと
  湯:  風呂に入ること
  力:  力業をすること
  行:  歩み道行くこと
  音:  高い声を出すこと音曲
  氣:  氣をつめ遣うこと
  風:  強い風に当ること
  白:  白いものを見つめること
  細:  細かいものを長時間みること


 これらの戒めは眼の治療や目を保護するため今日においても立派に通用する事柄である。
 この様に榎並流は江戸時代初期慶長、元和の頃から存在していたものと推測される。また、この流派においては眼の治療に専ら薬物を用いていたものと思われ、針を用うるような手術療方は十分活用していなかったようである。


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図1  極撰流眼目之治方 巻頭  元和2年(1616) 世戸口拾兵衛相伝
 
図2  図1と同書 巻尾 針の用方はすべて口伝
 
図3  東雲流眼科秘録巻頭 坂養`晋輯 相伝
 
図4  図3 と同書 所載 眼疾療治道具用意の事 針法はよくよく慎んで行うべしとある。
 
図5 『眼目東雲秘録』 巻頭 片仮名交りの伝本に全文平仮名を附している。江戸時代写

 

 

 
図6 榎並流秘伝目薬一流 上巻巻頭 慶長、元和頃の伝本の書写
 
 
図7 夢想流目伝之内秘薬 夢想流の秘薬を挙げたもの。江戸時代写


 

(1982年 1月 中泉、中泉、齋藤)

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