目次(サイトマップ)
画像なしのページはこちら
研医会眼科診療所のHPはこちら

 

研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (21)

30.『いやなが目薬』です。

 

財団法人研医会図書館 利用案内

* おしらせ:  研医会図書館は木・土・日曜休館です。 (眼科診療所は月〜金の毎日診療しています。)

* 図書館ご利用の方は電話にてご予約ください。 03−3571−0194(代表) 

所在地: 中央区銀座 5−3−8
交通: 東京メトロ銀座駅 徒歩5分 ソニー通り
開館時間: 9:00〜5:00
休館日:

木・土・日・祝

・2011年科学技術週間 展示会 「傷寒論とその関連本 その3」のおしらせはこちら

http://homepage2.nifty.com/ken-i-kai/index1102tenji.htm

・研医会図書館ウェブアルバムへのリンクはこちら http://picasaweb.google.com/kenikai.library


・2010年科学技術週間 展示会 「傷寒論とその関連本 その2」に展示した本の写真はこちら

http://picasaweb.google.co.jp/kenikai.library/2010?feat=directlink

 

 

30.眼病―切の大妙薬 家伝一方 いやなが目薬

 以前は"万金丹"とか"反魂丹"といった薬名をよく耳にしたことがあるが、江戸時代末期の売薬(正しくは"買い薬") は内服薬、外用薬ともその種類もかなりあり、一般大衆の手頃な救急医薬として役立ち利用されたようである。

 売薬の中には目薬も幾種類かあり、各地の薬師、寺社などから霊宝薬として授けられていた目薬の他にも薬種商から売り出されていた。例えば益田友嘉の眼薬五霊膏、笹屋目薬光明膏、松井目薬神授清霊膏、大阪の医師浅田寿庵の入残膏、奈良屋平七目薬北斗香、久喜周伯目薬金明丹等数々の目薬が売られていた(花咲一男著「絵本江戸売薬志」)。しかし、これら売薬は"しまず、いたまず○○ 目薬""一切の眼病に用いて効能神のごとし" 等と巧な看板広告によって買い薬利用者の心を引きつけ、買い気をさそい、薬は売られていたようである。

 掲出の写真は"いやなが目薬"の看板能書(一枚摺、彩色、36.5×24.5cm)である。この資料には諸国執次所として『筑前秋月弥永住、久野氏謹製』と印刷されてあり、現福岡県甘木市秋月弥永に住んでいた久野某なる人によって製造されたものと考えられる。また、 目薬の名前が"いやなが"とあるのは"弥永"という地名から付けられたのであろうか。しかし、この久野某なる人が目医者であったものか、単に薬種製造商人であったものか、また、時代的に何時頃の人であったものか不明であるが、この看板能書の内容にふれてみよう。

 看板能書改めの趣旨
 この眼薬は昔から家に伝わる名方で、慶長時代の始め頃からこの地方の多くの人々に試用され、百発百中の神効があり、速く治すことでは二つとない古今玄妙の奇方であるという。これ程まで効能著しき妙薬を秘しておくのは本意ではなく、世に広めて多くの人々の難病を救ってはどうかと、方々の人達に勧められ、造酒のひまに普く披露しようと思い、 この度看板能書を改めるものであるといっている。

 附 言
 この目薬は家伝の調剤である故 聊の利潤も得ようとするものではない。世に流布する薬方は暑中にて水を浴びるがごとく、一時的には清涼となるが、直ぐにまたもとにもどって炎熱になやまされる様に、一時的効能はあるが直ぐ効めがなくなる。しかし、この薬は金言耳に逆う、良薬口に苦しとかいわれる様に、非常によく効き、この薬を用いた時、暫時快よくないが、自然病の根を断ってしまう、誠に希代の霊薬であると。

 目薬使用法と適応症
 目がさ、ただれ目、つき目、 うち目、ほうそうめ、白點入たる目、雀目、かすみ目、むし目、はやり目、がん目、志川目、たいどくめ、血気目、上気目、外療内療、馬の汐目。これらの目には一日に六七度指す、小児にはよく寝入った時に指すこと。ただし、水ときにしてもよろしい。
 この外眼病一切其初めに早くこの薬を三服または五服用うれば重症のものも治すこと請合である。また、?毒にて咽痛み、あるいは喉風等難症に吹込んで即効あること奇妙であると述べている。

 このようにこの資料に述べられている薬は看板効能書き通りとするならば誠にすばらしい万能薬とでもいえる貴重な薬である。しかし、その処方が明らかでないことが如何にも残念である。この家伝の秘薬、いやなが目薬の看板能書によって慶長の昔、斯様な妙薬が造り出されていたことを知ることができる。

 

眼科諸流派の秘伝書(ll〜20)主な参考文献

末松道隆: 眼科玉明秘録 乾坤、1824(文政7).
諏訪姓忠寄:  酬紹流、麻嶋流及雑流、1727(享保12).
著者不詳: 明眼用方〔狩野金松本写し〕江戸初書.
菅原敬斎:  眼科大秘伝保済新流、明治初写.
大月寿斎:  家伝秘用方.1596(文禄5)伝写.
某市之助: 諮開活眼睛.1680(延宝8)相伝.
玄明叟 大智壹流小鏡巻 1787(天り17)書写相伝.
赤松定:  治眼通言 江戸書写
著者不詳:  山口道本内障一流美生的伝鏡秘術之事 1680(延宝8)豊俊書写
黒滝源意: 黒滝流眼病療治伝、江戸中期原田与内書写.
著者不詳:  家伝一方 いやなが目薬、江戸末久野某製
小川剣三郎: 稿本日本眼科小史 71、吐鳳堂、東京、1901.
富士川滋: 日本医学史 230、232、 日新書院、東京、1943
福島義一・山賀 勇: 日本眼科全書(日本眼科学会編)T:眼科史 1.日本眼科史78、金原出版、東京、1954
花咲一男: 絵本江戸売薬志 71、近世風俗研究会、東京、1956
服部敏良: 江戸時代医学史の研究 吉川弘文館、 東京、1978
服部敏良: 室町安上桃山時代医学史の研究 吉川弘文館、 東京、1971
中泉行正:  明治前日本医学史(日本学士院編)4 日本眼科史 272、 日本学術振興会、東京、1964.
武田科学振興財団: 杏雨書屋蔵書目録.大阪、1982
洒井シヅ:  日本の医療史 173、 東京書籍、東京、1982.
石橋長英他監修 酒井シヅ編:  薬と人間 174、 スズケン、名古屋、1982.

 

 

 

図1 家伝一方 いやなが目薬看板能書。木版。

 

(1983年 9月 中泉、中泉、齋藤)

*お問い合わせ、ご意見はこちらまで

     Twitterボタン

 

過去の研医会通信はこちら

 

 研医会図書館