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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (43)

52.『眼目女伝書』です。

 

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文庫の窓から 眼科諸流派の秘伝書(43)

52.眼目女伝書


 中国(明代)眼科書には眼病の病理を説明するのに五輪八廓説、五臓五仏説、十二神の説、五行生剋の説等が述べられているが、わが国の近世初期の眼科はこれら中国(明代)眼科伝来の影響で、五輪八廓説や五臓五仏説を採入れているものが多く、馬島流を初めとする眼科諸流派の秘伝書によってそれをうかがい知ることができる。標題の『眼目女伝書』は五臓五仏説に従って記述された秘伝書である。

 本書はおよそ20葉、全1冊(16×22.5cm)よりなり、本文は大方平仮名に変体仮名を混えた記述である。本書の内容は眼病の薬治療法、薬調合の事.薬性能毒等が主なる項目であるが、眼病の薬治療法については眼病図を彩色にて描きその各々に簡単な"みたて"(診断)
を述べ、その治療薬を書き添えている。それぞれの眼病に用いられる指薬を挙げれば以下のごとくである。

 この他虎胆膏、明眼地黄湯、木香湯、人参湯、大気湯、白述湯、黄耆湯、五金膏および洗い薬等も用いられたようである。ここに述べられた療法では白そこひ、中ひ、黒そこひ、青そこひは針を立てる目なりとしながらも指薬に大一膏(えんしゃう、志んしゃ、 りうなふ、志やかう等を調合)を一様に使用している。また、眼病に毒なものとして、婬、酒、湯、力、道、音、怒、遠、白、細など挙げられているが、眼病に対する食物の禁好品や手術療法についての詳しい記述は見当らない。

 眼病の病理については以下の様な記述がある。
「目は五ぞうのかなめなり、五知の如来を表するなり、かんのぞうはあび如来なり、志んのぞうは法性如来なり、はいのぞうは阿弥陀如来なり、ぢんのぞうは釈迦如来なり、ひのそうは大日如来なり。しんはふちなり、かんはさうめなり、ぢんはくろまなこなり、ひはひとみなり、はいはしろまなこなり」とあり、これをまとめると

1.肝臓 あび さうめ 大小皆
2.心臓 法性 ふち 胞 瞼
3.肺臓 阿弥陀 白まなこ 白 目
4.腎臓 釈迦 くろまなこ 黒 目
5。牌臓 大日 ひとみ 瞳 子

 この様になり、つまりこの病理説とは眼部を五輪に区別し、各五臓の一つに配し、さらにこれを五仏に配属せしめ、例えば肺を病めば白目に病が表われ、腎を病めば黒目に異常があるというごとく、要するに眼病は五臓に関係があることを説いたものだと思われる。
本書の成立年代についてはさだかではないが、その末尾に「右ハ女伝書也、干時寛永八天孟夏中旬書写畢」、
「寛永拾八年三月十五日、萩野治左衛門(花押)」、「慶安弐年、広岡庄太夫(花押)」などの相伝者の書込みとみられる年号が認められ、慶安年代(1648〜1651)の写本と推測される。また、本書の末尾には「むすめにつとうるにより女てん志よというなり云々」という後書のくだりがあり、これは眼病の治療書を娘に伝えたことを意味するのであろうが、あえて何々流とせず、"眼目の女伝書"としているところは大変興味深く感ずる。 また、本書の後書の内には"徒の国ほつみのかう"(摂津の国穂積郷?)、"屋まとの国"(大和国?)等の地名がみられ、本書は摂津、大和などの国(現在の大阪、奈良)地方に伝えられたもので、ある流派の眼科を家伝書のごとく書きしるし、娘に与えたものと想像される。

 
病 名
指 薬
  つりまけ …………… 真珠散
  出る月 …………… 金珠散
  入る月 …………… 金珠散
  みつまけ …………… 石膏散
  うわまけ …………… 活石散
  ただれ目 …………… 丹砂散
  うきひ ……………  
  もかさはしかの入る目 …………… 明上散
  うわひ …………… 明上散
  しのつき目 …………… 白竜散
  ほし目 …………… 白竜散
  まろうと目 …………… 明上散 竜丹膏
  めはす …………… 竜脳散
  めかき …………… 竜丹膏
  ち め …………… 真珠散
  ふちまけ ……………  
  そこまけ ……………  
  はいひ …………… 明眼散
  めひいる目 ……………  
  うちめ …………… 障脳散
  やみめ …………… 竜丹膏
  しろそこひ …………… 大一膏
  中 ひ …………… 大一膏
  黒そこひ …………… 大一膏
  きまけ …………… 真珠散
  志かん ……………  
  ちんかん …………… 明眼散
  けんひ目 …………… 真珠散 明上散
  むらくもうわひ    
  めたけ …………… 明上散
  かん目 …………… 明上散
  ねつき目 …………… 明上散


主な参考文献
小川剣三郎:  稿本日本眼科小史.吐鳳堂、東京、1904.
福島 義一:   日本眼科全書 1.日本眼科史23、金原出版、 東京、1954.
京都府医師会: 京都の医学史.302、 思文閣、京都、1980.


 

 

 

図1 『眼目女伝書』 眼病治療のこと。治療の説明は簡単で、大事な部分はすべて口伝。

 

 
 

図2 『眼目女伝書』 の後書の部分

 

 

 

 

(1985年7月 中泉、中泉、齋藤)

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