眼科龍木論(1)
「我邦ノ中古ノ眼科ハ純然タル唐宋ノ眼科若クハ之ヲ用フルニ方リテ少シク取捨刪削ヲ加ヘタル唐宋眼科二外ナラザルナリ」(富士川済博士)といわれているように、 日本の眼科は中国(唐 宋代)の眼科の強い影響を受けて発達してきた。また、中国は唐代より宋元代におよんでインドとの交通が漸く盛んとなり、仏教とともにインドの眼科は中国に入り、その眼科の面目を一新した(小川剣三郎博士)といわれ、 日本の眼科もまたインドの眼科の間接的影響を受けて発展してきたといえる。
とくに中国、明・清代に刊行された中国眼科専門書は日本にも輸入されたと思われるが、銀海精微(孫思邈著)、眼科全書(哀学淵著)、玄機啓微附録(蒔巳著)、一草亭目科全書(鄧苑撰)等はわが国においても刊行され、いわゆる和刻本として広く流布した眼科専門書である。『眼科龍木論』は明版あるいは明未清初版の他、多数の写本が伝えられ、その広く用いられたことが窺えるが、手許の図書目録によるだけでもその収録された龍木論の書名には次の様なものがある。
1)秘伝眼科龍木医書総論 10巻、龍木総論 6巻、葆光道人秘伝眼科 1巻
宋 葆光道人撰、嘉靖43(1564) 黄毅所待御公 刊本、 5冊
2)秘伝眼科龍木医書総論 10巻
宋 葆光道人撰、萬暦3(1575) 黄毅所待御刊本、4冊
3)秘伝眼科医書総論
宋 葆光道人撰、民国秦伯未校、民国25(1936)上海 中医局 石印本、 1冊
4)秘伝眼科龍木医書総論 10巻
宋 葆光道人撰、朝鮮鈔本、 3冊
5)秘伝眼科龍木医書総論 10巻
宋 葆光道人撰、日本鈔本、 4冊
6)秘伝眼科龍木医書総論 10巻、首1巻
宋 葆光道人撰、応永27(1420)鈔本、10冊
7)秘伝眼科龍木総論
丘鳴確校 隆慶改元(1567)刊
8)秘伝眼科龍木医書(葆光道人秘伝眼科)
葆光道人著 萬暦3(1575)王問序 清未再刻、書行堂刊、10巻4冊
9)秘伝眼科龍本論 10巻、 4冊
葆光道人著 萬暦3(1575)王問序 大文堂刊
10)秘伝眼科龍木医書総論 10巻、首1巻
明刊(清印)
11)秘伝眼科龍木総論 10巻、首1巻
(応永抄本、多紀元清L手跛本)、文政3(1820) 写
12)秘伝眼科龍木医書総論 10巻、首1巻
葆光道人秘伝眼科龍木論 萬暦3(1575) 王問序刊 本衛蔵板、 4冊
『眼科龍木論』は「秘伝眼科龍木医書総論」 10巻と「葆光道人秘伝眼科龍木論」 首巻1巻の全4冊よりなる、中国で最も古い眼科専門書と考えられるが、古人の評に
「此竜木論卜申ハ古ヨリ言伝ヘマスルニハ竜樹菩薩ノ著サレマシタル眼書卜申コトニ御座リマシテ、幼々新書卜申ス医書ノ第40巻二申シ御座リマスニハ前代方書中載竜木論、此論莫究其所従出世々言龍木王菩薩之書卜記シテゴザリマス……畢竟確ナル証拠モアリマセン、サスレバ唐ノ世二出来マシタル眼書卜存ゼラレマス、其竜木論卜名付マシタル所以ハ仏説二龍樹大師者能治眼疾申ス語ガアリマス故二多分其説ニヨリ龍木論卜名付マシタルモノト存ゼランマス。ナレドモ眼科ノ書物ノ中ニテハ至極古キ書ニアリマシテ、少シハ治療ノ助卜相成マスル書ニゴザリマスレド800年以来被ニ伝へ是二伝ヘマスル内二誤字脱簡等多ク、其上後人讒入附会之説相見ヘマスレバ能ク是非ヲ相正シテ療治ヲ仕マセヌト反テ治療ヲ○ルコト多クアリマス、 ワキマヘザルベカラズ」と述べられているように、秘伝眼科龍木論は古い眼科専門書であるが、内容に誤字脱簡も多いからよく確めて治療の助けとせよ、 といっている。
本書の内容は陰陽、八卦の哲学的考え方と五臓六腑の精、皆眼にあつまるとの病理説、いわゆる五輪八廓説を神髄に72の症と方を挙げて述べられたものであるが、その内容を各巻の目録によって抄記すると以下の通りである。
秘伝眼科龍木医書目録 | |||
葆光道人秘伝眼科龍本論巻首 | |||
五輪歌 八廓歌 論 鉤割針鎌法 論眼捷法 論眼 | |||
昏花捷要 自第1問答至第72問答 | |||
龍木総論 | 巻1 | (上) 12條 | |
(中)症 1~ 14條 | |||
(下)方 1~ 14條 | |||
巻2 | (前)症 15~ 23條 | ||
〃 | (後)方 15~ 23條 | ||
巻3 | (前)症 24~ 35條 | ||
〃 | (後)方 24~ 35條 | ||
巻4 | (前)症 36~ 50條 | ||
〃 | (後)方 36~ 50條 | ||
巻5 | (前)症 15~ 60條 | ||
〃 | (後)方 51~ 62條 | ||
巻6 | (前)症 63~ 72條 | ||
〃 | (後)方 63~ 72條 | ||
巻7 | 諸家秘要名方 5家 | ||
1.巣氏論針侯 1方 | |||
2 三因方 13方 | |||
3 本事方 6方 | |||
4 百一選方 5方 | |||
5 和剤方 14方 | |||
巻8 | 針灸経 21條 | ||
巻9 | 諸方弁論薬性 2條 | ||
1.玉石部 25種 | |||
2.草部 69種 | |||
巻10 | 諸方弁論薬性 8條 | ||
3.本部 29種 | |||
4.人部 2種 | |||
5.獣部 14種 | |||
6.禽部 2種 | |||
7 蟲魚部 17種 | |||
8 果部 1種 | |||
9.米穀部 2種 | |||
10.菜部 7種 |
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1987年10月 (中泉・中泉・齋藤)