研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『一草亭目科全書』です。

一草亭目科全書

 『一草亭目科全書』は部苑(一草亭)の撰にして、偶齋年希堯が康熙56(1717)年に序を書いて重梓した中国(清代)の眼科専門書である。わが国においては、文化2(1805)年5月に翻刻がなり、大阪の崇高堂などから梓行された。掲出本はその文化版である。

本書は上(30丁)、中(24丁)、下(31丁)巻の3冊よりなり、各巻とも四周単辺匡郭、有界、毎半葉10行、毎行20字詰(25.7×18 cm)、版心:書名、黒上魚尾、巻数、丁数を刻し、本文は漢文体で書かれている。上巻の巻頭に清江博望郵苑撰、廣寧偶齋年希堯重梓と
なっているが、中・下巻には撰、梓行者はないが「異授眼科」なる副題を附している。

本書の内容は「五臓六腑之精華皆上注妙目…」の文句で始っている“目論"より記述され、“脈有七十二症医法"に終わっているが、その内容を各巻の目録により抄記すると以下のごとくである。

上巻 目録
目論、 目図、日議、外障、外障治法、内障、内障治法、小児痘毒眼治法、小児疳積眼治法、小児雀目治法、附刻、薛氏選方。

中巻 目録
異授眼科
明目論、目図、眼病歌訣、冷眼歌訣、熱眼歌訣、薬性光明賦、五経虚、潟五経火、眼目虚実冷熱論、点薬薬性、炮煉法、男女禁忌、看眼法、演薬法、點薬法、製薬法、煎膏法、研薬法、合薬法、用薬法、服薬法、禁忌、主薬方、輔薬方、加減方、仙伝神効點眼方、用法開後、神放水眼薬方、按五輪治療捷法、四季加減煎薬方、四時加減、飲酒過多加減、受寒頭痛加減、受熱紅腫加減、悩怒目痛加減、夢遺目昏加減、労神目腫加減。

下巻 目録
異授眼科
脈有七十二症医法

以上が本書の内容目録であるが、内障、外障の種類を以下のように分類している。

内障:  緑水灌腫 蠅影飛越 瞳神濶大 抱輪紅、瞳神焦小、亡血過多昏暗、瞳神返背、能遠視不能近視、瞳神缺陥、能近視不能遠視、瞳神破損、婦人胎風、瞳神空散、倒経血出、坐起生花、小児痘瞖、青盲瞖障小児疸傷、冷涙時出、黒霧蔽室、眩量轉晴、省目夜発、
鳥風時発、不能久視

外障:  暴発時眼、疼痛難開、時限傳染、羞明怕日、白珠生瘡 粟沙隠澁、胞瞼腫爛、挙毛倒睫、弩肉抜晴、赤筋貫瞳、翳膜遮晴、垂簾翳障、衝風出涙、漏晴膿出、傷寒流毒、鳥珠下陥、鳥珠突出、偸針時発、胞内生膠、風牽蝸斜、省目凝晴、撞破生翳、血灌瞳神、飛塵傷目、時発有根、瞼硬腫脹、瞳神脹痛、時発痺澁、小眥赤澁、大眥赤澁、氷輪翳、旋螺翳、浮翳、寅翳、濕翳、乾翳、白翳、釘頭翳、紅翳、青翳、黄翳、黒翳、時発時散翳、裏急外弛、跌撲損傷

また、下巻においては第1問より第72間までを説間し、いわゆる問答形式により72症例について医法を論述し、用薬の処方を掲げている。

例えば第2問
眼有赤腫者何故 答日五臓熱邪内攻以致心火暴盛皆酒之所致也宜點青龍虎液膏服洗心散羊肝丸、方見七十一問
洗心散:  治肝熱傳於心経積熱上攻眼弦澁晴疼熱盛風多
赤芍、甘草、荊芥、生地黄、木通、大黄連、薄荷、當歸
水煎食後服

本書の副題的書名、“異授眼科"につき、偶齋は本書、巻中の明目論の中に、次のように述べている。「異授眼科―書予家姑丈涿鹿先生所授也、此書伝自異人、世無別本、予見而愛之乞以携歸秘之筐中者二十餘年矣 癸巳歳宦遊西奥云々…」と。本書はもともと鄧苑の撰にして異授眼科とあるのは偶齋が李源鹿先生より授つた一本で、後に「目科全書」とともに梓行したものであろうか。

本書にはこの文化2年版以外に主なものとして以下の刊本が挙げられている。

一草亭目科全書、異授眼科
「経験四種」(清・黄晟 乾隆14年)ノ内
一草亭目科全書 明 鄧苑撰
「芸海珠塵」ノ内
一草亭眼科全書 清 希堯年撰
上海千項堂書局石印本
一草亭目科全書(1巻)異授眼科(1巻)、
明、鄧苑撰 清 胡芝樵校、異授眼科 著者不明 清、胡芝樵校、1957年
上海、衛生出版社排印本

本書は『医範提網』(宇田川榛齋 文化2年刊)や『和蘭眼科新書』(杉田立郷、文化12年刊)等が次々に刊行され、漸く和蘭医学が盛んとなる頃、『銀海精微』(寛永18年、寛文8年刊)、『原機啓微』(承応3年刊)、『眼科全書』(貞亭5年刊)等の翻刻に次いで行われた翻刻眼科専門書の一つである。

 

主な参考文献
鄧 苑:   目科全書 崇高堂刊、文化2、大阪(1805)
廖 温仁:  支那中世医学史、カニヤ書店、京都(1932)
福島義一:  日本眼科全書 1 日本眼科史、金原出版、東京(1954)
小川剣三郎: 稿本日本眼科小史 吐鳳堂、東京(1904)


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  図1  『一草亭目科全書』 扉および序文  

 

 

   
  図2 同書 巻之上、巻頭  

 


1988年4月 (中泉・中泉・齋藤)