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今回は 『諸人心得 眼病論』 です。

諸人心得 眼病論

 明治16年(1883)、第1回眼科留学生となった梅錦之丞氏が帰国して東京大学医学部教授となり、その翌年12月15日には梅教授をはじめ須田哲造、井上達也、安藤正胤、桐淵光斎、田代基徳の諸氏が相会して眼科会結成の企てもあり、中央においては西洋眼科を主軸に漸く眼科の近代化が進められつつあった。本書はこうした時期、明治16年1月、柿沼真― (節堂、下野国河内郡多功宿の人)氏著、島村利助書林より発兌された。

 本書は17丁全1冊(18×12.2cm)本版、四周双辺、無界、毎半葉9行、漢字片仮名交り、振仮名付和文、和綴りの小型本である。内容は総目並びに附録目次によれば以下の通りである。

 

諸人心得 眼病論
総目
天行眼之論、風眼之論、底痺眼之論、散大眼之論、小児眼之論、眼病長ク患ル者之事

附録目次
無病眼之論、眼丈夫二致ス方、病人神佛ヲ祈ル論、氣回丹田之方、一功之災難疫病コレ
ラ等ヲ除ル妙符之博、眼病十悪之事、治目疾六要、喪明十六件、眼病之人食物善悪之事、
医方無論、相法眼之図

これらの各項目の記述は病論、原因、治法、心得等についてであるが、主なものを註記すると以下のことのようである。

〇天行眼之論
油断禁物、早期治療
○風眼之論
天行眼は風眼の初発、風眼は治法と看病と患者の身行が悉く大切
○底痺眼之論
青黄赤白黒の五色の症候があり、其時節を待つて針を刺す治法があるが各人一様に論じ難い
○散大眼之論
瞳孔の濶大する症
散大底痺、瞳孔が鳥晴一円に開く症
縮小眼 瞳人が針穴の如く縮まる症
〇嬰児眼之論
母親の食物に注意し、胆毒には特に油断は禁物、妊娠食忌のこと

附録
○眼ヲ丈夫二致ス方(甲斐国徳本翁之博)
朝顔ヲ洗ウ時塩ニテ歯ヲ磨キ其ロニ水ヲ含ミ其水ニテロヲ洗ウコト、毎朝致ス時ハ眼健
カニ成ナリ、又五十以上ヨリ毎朝鶏卵ヲ1ケ宛用ルモ宣シ、湯ニテモ酒ニテモ、又御飯
ニカケテモ宣シ、煮焼シテハ効ウスシト云
〇病人神佛ヲ祈ル論
神佛ノ護ハ先良医二逢力良薬ヲ得ノガ則感応卜知ベキナレドモ薬ヲ請ル心ナクシテ祈ル
ハヲロカナリ
○氣回丹田之方
身躯ヲ丈夫ニシテ寿命ヲ延スト云フ方
〇眼病十悪之事
1.淫(男女適合ノコト)2.酒(酒ヲノムコト)3.湯(フロニイルコト)
4 カ(チカラワザ) 5.行(アルクコト) 6 音(ヲンセイヲツカフコト)
7 火(ヒノキニアタルコト)8 風(風ニアタルコト) 9 白(白キモノミルコト)
10細(コマカキモノヲミルコト)
〇治目疾六要(晉書張淇之言)
1.損讀書 2 減思慮 3 専内視 4.簡外視5.晩起 6 夜早眠
○喪明十六件(千金方 目病門)
生食五辛、接熱飲、食熱餐獅、食飲酒不巳、房室無節、極目遠視、数看日月、夜看星火、
夜讀細書、月下看書、抄篤多年、離鎮細作、博変不休、久虎畑火、泣涙過多、刺頭出血
○眼病之人食物善悪之事
悪いもの
アグラゲ、モチ、メンルイ、 ワラビ、 ウド、タケノコ、マクワウリ、 トウナス、 トウキビ、ゴマ、キノコルイ、ナマグリ、カキ、ネギ、アサツキ、ラッキョルイ、カラ キモノノルイ、マメ、ナットウ、キナコ、ソラマメ、エンドウ、 トウフ、サトイモ、 メウガ、キュウリ、エビ、イカ、タコ、カニ、海川ノウオルイ、鳥獣類

善いもの
麦入メシ、アワヒエ、 ショウユ、 ミソ、 ヒショウ、アヅキ、 クヅノコ、ダイコン、 キリボシ、 ヒバ、ニンジン、ヤマノイモ、 クコ、 フキ、 レンコン、 クワイ、 カ ンピョウ、二月マメ、 ナンキンマメ、ハスイモ、ホシイモノカラ、サツマイモ、キク ノハナ、ヤサイノミソヅケ、ヤキフ、 コホリコンニャク、 コホリトウフ、アラメ、 ト コロテン、モモ、スイカ、ブドウ、ナシ、 ミカン、 ウメボシ、アメ、 コンブ、 ヒジキ、ワカメ、アマサケ、 シロサトウ、カツオブシ、シロウヲ、シジミ、ハマグリ、 カイルイ、ナス、但シ、ウナギ、タマゴノニ品ハ虚眼ニヨシ、 其他ノ症ニハヨロシカラズ。

 

○相法眼之図
龍眼(威勢相)、鳳眼(清高相)、象眼(慈仁相)、牛眼(神氣吉)、酔眼(凶相湮相)、羊眼(凶相)、猪眼(涯相)、蛇眼(悪相)、舜目(上相)、項羽眼(超越相)、多白(凶相)、四方眼(凶相)

以上本書はその前半は本論、後半に附録を配したものであるが、その説は何れも中国唐土の医方をもとに述べたものである。本書が出版された当時は東京大学初め他の医育機関にも近代眼科が次第に採入れられ、その学術ともに漢方眼科から西洋眼科へと移行しつつあった時期で、本書はそうした過渡期における異色版眼科書とみることができる。

 

 

●主な参考文献  
  小川剣三郎: 明治時代日本眼科史実眼12、180、東京、1929
  小口忠太: 日本眼科五十年略史(1)、(2)綜眼 38、599、711、東京、1943
  福島義一: 日本眼科全書1 眼科史、金原出版、東京、1954

 

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  図1 諸人心得 眼病論 表紙  
     

 

   
 

図2 図1同書 扉および自序冒頭

 



1989年4月 (中泉・中泉・齋藤)