研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。


今回は 『結膜病図解 』 です。

結膜病図解

 「聞きたるは読みたるよりも了解し易く、又百たび聞きたるは一たび見たるに如かず……主として視診に依つて診断するを要する疾患は一層図に就きて之を説明するを利ありとす」(石原忍著『最新トラホーム図説』)とあるように、眼病図は中国伝来の古い眼科書(『銀海精微』『眼科全書』等)にも理解を深め易いように線描きではあるが絵図が挿入されている。これらはわが国に渡来してさらに詳細に色彩の手が加えられ、図譜、図鑑の形で大いに発達した。近世日本の眼科図譜の優れたものとして、黒木可亭の『済明図鑑及附録方論』(享和元年)、宮本周説伝『眼科図譜』(筆者未見)、本庄普一作『眼科錦嚢』附図(筆者未見)等はその一例であろうか。

 これらの図譜の発達は病状の理解を用意にしたとともに、臨床的観察がより的確に行えるようになったあかしとみることができるといわれている。これらの眼病図には簡単な図説が附されていたが、一類一症の分類法による眼病各別の病状説明であつた。一つの眼病
を選んでその病変を記録し図解するようになったのは近代眼科が直接行われるようになってからのことといわれている。本書はそうした明治20年代前半に行われた眼病図解書の第1書とみられるもので、著者はその緒言に次の如く述べている。
「今ヤ吾邦医学ノ進歩日一日ニ著シク、随テ著書及ビ譯書等ノ図解挙テ数フ可ラスト雖モ、独リ眼科的結膜諸病ノ図解アルヲ見聞セス……聊ヵ其缺ヲ補ハント頃日都下眼科医院済安堂ニ於テ患者治療ノ傍結膜病三十二種ヲ選定シ其形状着色ヲ摸写シ各種ノ病候ヲー目シテ了解ナラシメ、尚短簡ナル解ヲ附シ之ヲ公ニシ以テ同胞治療家ノ便二供セントス」

 本書はこのような趣旨で井上達也(名 維馨、号 甘泉、幼名 徳兵衛、通称 達也、1848~1895)校閲、高橋甲蔵(宮城の人、井上達也門人)編纂により明治22年(1889)11月に出版、丸善、島村両書肆から発行された。

 本書は図解19頁、図4葉(彩色結膜病図32図)全1冊(19.7×13.2cm)ょりなり、赤色濃淡の度を5級に分け、病状の軽重を3種に分別し、原因、治法をも
含めて解説している。また、本書の広告によれば、此書は眼科医院済安堂(1881年開設)において数百人の患者について、其病変を記すに際し、員を摸写した図にして、其数32種、 1つは赤色濃淡の度を5級に示し、 また、各病の軽重を3種に別け、その強弱の度を対照とするときは11級にして病候7種となし、ほとんど結膜病を盡したもので、治療者の常に坐右に必用の書である、 としている。

  このように本書は結膜病のみに限って眼瞼および眼球結膜に現われた病状を綿密微細に摸写し、図解を附して印行したもので、従来の眼病図譜などとは異なる結膜諸病の彩色図解書として大変貴重なものであると思われる。  

  主な参考文献  
  中外医事新報 N0261、東京、1891
  井上眼科研究会報告 No 15~ 16、p74、東京、1895
  小川剣三郎: 稿本日本眼科小史 吐鳳堂、東京、1904
  福島義一:   江戸時代の眼病図譜についてl―l、0 眼臨42、16、42、東京、1948
  福島義一:  日本眼科全書1 日本眼科史、金原出版、東京1954
  宇山安夫: わが銀海のパイオニア、p45、千寿製薬、大阪、1973
  井上治:  井上眼科病院百年史.東京、1983 


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 図1  『結膜病図解』表紙  
  
   

 

   
 

            図2  図1同書所載彩色石版図(1-8)

 


 

   
    図3   図1同書所載彩色彩色石版図(25-32)  

 

 


1989年7月 (中泉・中泉・齋藤)