研医会通信  163号 

 2018.12.17
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『豁開活眼睛』に載る内障の針の立て方 です。

『豁開活眼睛』に載る内障の針の立て方

さきに筆者らは本誌(『臨床限科』第35~39巻)に、わが国の“眼科諸流派の秘伝書"と題して、眼科古写本を紹介したが、馬嶋流眼科の古写本には、なお幾種類か伝えられているので、手許にあるものを紹介する。

 

ここに掲出の『豁開活眼睛』には2種類あって、それぞれ末葉に以下のような墨の書き入れがある。

1.「此眼目抄何国ニテモ鵜方村道志市之助二附与スル者也、一覧毎ニ為没後可有念誦コト必□  久心 花押」(墨付53丁、27× 19 cm、5針和綴、漢字片仮名交り和文、写本)

1.「延宝八年庚申天 志刕鵜方村市之助 花押」(墨付104丁、14× 20 cm、 4針和綴、漢字片仮名交リ 和文 写本)

 

本書の原著者は不明であるが、 これらの写本はそれぞれ、久心、市之助という人によって書写相伝されたものと推測され、1本は書写年号が不明であるが、他の1本は延宝8年

(1680)とあり、志刕鵜方村(現在の三重県志摩郡阿児町鵜方?)の住人市之助が久心から伝授されたものとも想像される。

 

本書の構成は、これらの写本によると次のような項目より成っている。

 

『豁開活眼睛』

眼目

四十八種之薬性能毒

眼目論

眼目見様之コト

療治之次第并ニヌル金ノコト

目医師一大コト

薬性能毒

真嶋秘傳抄

甲斐之白方一流 目見様之コト

築紫玉泉坊流(伊勢之国谷野坊傳授ノ方)

 

この時代は各流派において最も重視されていたのが内障の針術すなわち針を立てることであったようであるが、本書にはその内障の針について、築紫玉泉坊流の項に詳述している。これは伊勢の国谷野坊(現在の三重県度会郡玉城町矢野の寺らしい <大治町史第二集: 馬嶋流眼科と明眼院>)伝授の方といわれ、以下のごとく図入りで記述している。

 

「白内瘴、黄内瘴、中瘴是三之針也、先病者ニ能食ヲ可進、天氣如何ニモ晴テ風モナキ時分外ニ住傘ヲ指テ其下ニ病者ヲ寝サセテ、枕ヲヒキクシテ昼ヨリ前ニ可立、如何ニモ吉日撰立也、醫者モ如何ニモ機嫌能時分立也。 見セ針ノコト、先目ヲ左手ニテ如常アケテ黒目人見ノ上ニ針ヲ横ニ置キ眼玉ヲ定サセテ、扨針ヲソロリト引乍黒白ノ間ノ黒目ノ内白目ヨリ糸目ホドモ黒目ノ内ニテ針サキヲ引止テ針ヲスグニナシテソロリソロリト捻入也。目ノ上皮針ニ付テ皺ガヨリテハヲドケナドスル、不苦一分斗モ入タルト思時針ヲ横ニシテ、人見ノ内ニテ針先ヲ見ニ人見ノ真中ホドヱ針先ノ見ユルガ分也。目ニ大小有ニ依テー分ニテ不届、又針ヲスグニ成シテハ捻入捻入ニ二三度モシテ人見ノ中ホドヱ届時、針ヲスグニシテ如何ニモソロソロト引抜也、抜様ガ荒ケレバ人見ガ針二付テ邪ム也、若邪ム時ハ針ヲソロソロト直シテスグニヌク也、扨返針卜云ハ、先ノー文字ナル眉ノ針ヨリ細針ヲ今ノ穴ヱスグニ前ノ如クソロソロト捻入テ針先人見ニテ見ヱル時ホド針ヲ横ニシテ中ノ膿ヲ扨立ル也、如何ニモソロソロト針先ヲ左右前後ヱカキ廻スコト且クシテ、又針ヲ直グニ成シテソロリソロリト捻ヌキトル也、水ガ颯卜針ニ付テハミ出也、膿出コトモ有、サテ膿ウキ上テ黒目ニヒロガリー盃ニナリタルガ吉也、如此一針立、サテ針口ヱスミ薬二花石ヲ加テ捻カクル也、サテ病者ヲ産後ノ如ニ寝所ヲ兼テ用意シテヨリカカリニカカラセテ置、寝所ヱ手ヲ引ツレテ行、如何ニモ如何ニモ閑ニソロソロトアツカウヘシ、其日ハ白粥斗少食、次日飯ヲバ可用、毒立身持肝要也、目ニ異ナルコトナクバ内薬ニモ不可及、時ニ指薬斗用也、但目ニ血ナドヨリテハ血退ク可、療治スベシ頭痛コトアラバ別ノ煩出来ラバ内薬ヲモ用也、一針ニテ膿ノ出テ見ユルコトモアリ、不然バ二ノ針ハ前ノ如ク寝所ヲモ用意シテ可立也、但前ノ穴ヱ不入新所ニ針ヲ可立二ノ針三四五六ノ針ニテ大方アク也、十、十五針マデモ立者也、十五日ホド休メテ、又二ノ針ヲバ可立也、何モ針立間ハ十五日ホド間ヲ休テノコト也、大方絵図ニ見タリ」

 

また、本書には他の馬嶋流秘伝書に記述されている“目の禁物、好物"の他、“ 目平生養性之コト"の項には、 日常の養生の心得として以下のような諸條を挙げている。

 

「向東西不大小便、頭ニ針ヲ立血ヲ取事ナカレ、 目ヲ見ハリテ夜書ヲ見ズ、久ク向灯明書物セズ、房事莫過事、力不出、能茶多不呑、頭不温、蛭カイセズ」

「目通驚物

一、生五辛

二、麪類

三、熱物

四、夜事多不呑

五、婬乱

六、疲レ遠見

七、日月ニ向テ光ヲ不見

八、星見事

九、細字見事

十、月ノ光ニテ物書事

十一、ソゾロニ物書事、

十二、細工セズ、

十三、バクチ

十四、 目ニ煙ヲ入ル事

十五、泪垂テ啼事

十六、初物食事

コレラ十六箇條皆目ヲ損ウ基也」

 

本書はこのように、甲斐流、玉泉坊流など天下諸国のいろいろな流派の眼病治療法、用薬処方などを集めて、いわば抄本様にまとめたもので、本書の序(眼目)の終りに「真嶋家伝秘抄不在他家、日域之珍書謹拝」とあり、天下の珍本として扱われていたようである。

 

 

図1.『豁開活眼睛』A 市之助本  表紙

 

図2.図1同本 巻頭 

 

図3. 図1同本所載の「真嶋秘傳抄」 眼病図

 

図4. 『豁開活眼睛』 B 久心本  表紙

 

図5. 図4同本  巻頭

 

図6. 図4同本  「四十八種之薬性能毒」

 

図7. 図4同本所載の「真嶋秘傳抄」眼病図

 

 

主な参考文献

 

富士川 游:  日本眼科略史 私立奨進医会、東京、1899

小川剣三郎:  稿本日本眼科小史 吐鳳堂、東京、1904

野田 昌:      馬嶋流眼科と明眼院(大治町史資料編第二集) 大治町役場、愛知、1976

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1993