研医会通信  169号 

 2019.5.15
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『眼目』 (内題:『麻嶋潅頂小鏡之巻』)です。

『眼目』(内題:『麻嶋潅頂小鏡之巻』)

 

 

本書は外題に「眼目」の2字が書かれているだけであるが、内題は『麻嶋灌頂小鏡之巻』となっており、麻嶋流眼科の治療方法などを記述したものである。

 

本書の奥書によれば、この写本は尾州三本木麻嶋(愛知県海部郡大治村三本木馬島)の真寺大坊(真島の寺の大智坊)の清源という僧が三州賓来寺(愛知県南設楽郡鳳来町鳳来寺)の薬師如来(峯薬師、 日本三薬師の1つ)へ17日の間参籠して得た秘法の書物であって、のち、慶長12年(1607)に清源家伝として麻嶋若狭守林活、三刀屋新左衛門尉へ相伝された写本だということである。この写本は全1冊12葉(18×23.7cm)からなり、紙のコヨリで綴った横長本で、格紙の料紙に漢字と片仮名混り(毎半葉の行数、字数など不定)の和文で墨書した、朱入本である。本書の内容は、その主な項目によって抄記すると以下のとおりである。

麻嶋灌頂小鏡之巻

眼病論

三十九味之薬種

薬能、処方

灸治之吏

薬種之名

薬使替之吏

眼目好物

眼目禁物

眼目養性之次第目之大吏

七種之内障

 

簡単に内容を紹介しよう。

「眼病論」においては五臓六臓と眼の関連、十二病と十二神の説。

「三十九味之薬種」には龍脳など39種を挙げる。

「薬能、処方」には龍脳散などの処方を掲ぐ。

「灸治之叓」(略)

「薬種之名」には龍脳など39薬種の名称と薬能を記している。

「薬使替之叓」には、「龍脳之代(わり)ニ生脳焼、 真珠之代ニ赤石脂、活石、牡蛎之代ニ鳥賊、龍石、萑貝之代ニ貝子、生脳之代ニ焼龍脳」とある。

「眼目好物」ミカン、柿、瓜、栢、ハモ、蚫、塩鯛、コチ、イリコ。

「眼目禁物」淫、酒、力、行、声、遠、風、白、細。

「眼目養性之次第」には眼病の治療方法を記しているが、藤膜、簾膜、杉膜、浮障、天火、風眼、爛目、逆マツゲ、土肉、小肉、提婆ノ星、塰ジャク、疱瘡目、外障、月ノ輪、 クボミ、鐘膜、ス丸星、名ノナキ目などについて彩色線描絵を付して記述し、例えば、次のようである。

 

爛目:   此爛様ハフチニ悪血有ルユヘナリ、地ノ血能々取七日間取ル、薬ヲサス、

アライ薬カンヨウナリ。

月ノ輪:  是ハ月ノ輪卜云、イヤシキ者二出ル也、大叓ノ目也、是ニヨコ刀ノ大叓ア

リ、地ノ血ハ七日取ルナリ、養生同前(ウハビ)也口博。

 

「目之大吏」。こゝには、 目の見様のいろいろ、 ソコヒの針のいろいろ、 目の養生のいろいろ、刀の大事、ヌルガネの大事、アツガネの大事となっているが、 これらはすべて“口博有"としるされている。

「七種之内障」の項では「七種ノ内障ヲ知ル叓麻嶋之家之秘叓ナリ」とあり、以下のように7種の内障について記述している。

 

黄内障:  色油ヲ入タルヤウニ庭鳥ノ目ノ様也、人見大二成ルナリ

青内障:  是ハ黄ガチナルヒワノ色ナリ

血内障:  是ハ紫ノ色ナリ

石内障:  是ハ人見細ク成ルナリ、色ハ粟、キビノ色ナリ

黒内障:  人見大ニナルナリ、是ハ光ナキスミノ色ナリ

中障:   色ハ薄墨色、是ヲ中ヒト云

白内障:  養生ノ大吏アリ、針ノ深サ三分也、 ウミヲカキ立ル、アレコレ有、左右へ

立、サキヘ六ツ、アトヘ三度マワシ戻スナリ、立テント思フ日ハ内薬乳ニテ

トキ薬コシラヘ置ク也、諸口傳有

 

このようにそれぞれ彩色線描の眼病絵図を付して説明しているが、いかにも簡単な記述であり、実際の治療がどの程度に行われていたか明らかでない。

 

以上が本書の内容のあらましであるが、『麻嶋灌頂小鏡之巻』という書名がつけられた写本には、書写する者や年代の異なるものが他に幾種類も見られるようで、師から弟子へ、弟子からそのまた弟子へと伝授されたものと思われる。これら灌頂小鏡の巻の内容は大同小異であるが、そもそもの法は麻嶋大智坊が主張したといわれる、三河の鳳来寺薬師如来へ参籠して伝授された方法、すなわち清源家伝の秘法がその源になっているように思われる。

 

このように本書は麻嶋流眼科を伝える代表的眼科書の1つに挙げることができるが、記述は極めて簡略で、大事な部分はすべて“口傳有り"となっていることがいかにも残念であり、当時の医術がいかに非公開的であったかがうかがえる。

 

 

主な参考文献

小川剣三郎: 稿本日本眼科小史、49、吐鳳堂、1904

小川剣三郎: 稿本日本眼科年表、1929

福島義一:  日本眼科全書1 日本眼科史58、日本眼科学会、金原出版、東京、1954

千葉保次:  馬島明眼院をたずねて、日本の眼科63:14、1967

金岡秀友:  古寺名刹辞典 300、東京堂出版、東京、1973

野田 昌:  馬島流眼科と明眼院 大治町役場、愛知、1976

 

 

 

    図1: 『眼目』表紙

 

  図2:  同書 巻頭

 

 
図3: 『麻嶋潅頂小鏡之巻』の眼目養生之次第の部分 (左頁) 図4: 同書同じ部分 (右頁)

 

 

  図5:  同書 奥書(慶長12年識)

 

 

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1993