研医会通信  175号 

 2019.11.26
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『辞俗功聖方』と『授蒙聖功方』2 です。

『辞俗功聖方』と『授蒙聖功方』2

 

「眼目門」は両書次のようになっている。

辞俗功聖方(慶長18年写)

巻之下

(37 眼目門)

夫眼目ノ病ヲ治スルコト人々家々ノロ伝アル也。乍去氣血ヲ流通シ、風邪ヲ退ケ腎水ヲ補益セハ眼目ノ昏暗ナル患ハ出マジキ也。

命門ノ相火タカブリ或膏梁辛辣ノ物ヲ過食シ胃火盛ニヲコリ、目赤ク疼痛シ、熱涙出デハ石膏ニテ胃火ヲ瀉シ、柴ニテ肝熱ヲサマシ泉百二テ命門ノ火ヲ地異ニテ血ヲ補へ。

或ハ少年壮歳ニヨラズ風眼ヲ煩イシガシカト癒ヘヌニ淫叓ヲ犯セバ赤カミモノカズ痛モナヲラズ、目渋リマガスミ多ク出ル也。然ル間病目ノナヲラヌ間ハ必房叓ヲツツシムベシ。ツヨク房叓ヲ過シタル人、目赤ク濁リマケサシ出デテ煩ツツ淫叓ヲ戒メ毒物ヲツツシミ、内薬、地、彔、芹、百、五加皮ノ類ヲ用フベシ。風熱ニアタリ目赤ク痛ミ并二頭痛シ、上氣シテナミダ出バ木賊、防風、、苓、連、地、芍等分ニシテ煎ジ与ヨ。大便結セバ虎ヲ加へ痛甚シクバ芹ヲ加へ地ヲ増、煩熱シテ不得眠コト梔ヲ加ヘテ熱シ、痛ミ赤ク腫ハ柴ヲ加ヘテ風熱ノボリセメ目ノ中二赤筋引ハラバ菊花ヲ加ヘテ木賊ヲマゼヨ。白晴ツヨク腫テ痛ニハ桑白皮ヲ加へ、頭痛甚クバ苛ヲ加ヘテ羌ヲ増セ。目赤ク痛ミマプタ爛レ渋ツテ明キニクキヲバ沈、荊、連、五、子、栢、開元錢十文ヲ絹ノ袋二入テ煎ジテ少シアツク好キカンニ洗ベシ。日中ニ四、五度モ温メテ洗べシ。目痛ミモセズ、爛レモセズ光ウスキハ、毎日早朝ニ起テ生塩ヲ少シロノ中二入テ指ニテロ中歯ノ根ヲスリ、汲ミタテノ水一口ニテススギ、茶碗ノ中ヘハキ出シ、其ニテ目ヲ閑カニ洗フ可シ。此如ク怠ラザルトキニハ目ヲ病ムコトナク老ニ及ビテモ光明カ也。

 

授蒙聖功方(正保4年刊)

巻之下

(36 眼目門)

夫眼目ノ病ヲ治スルコト家々ノ有口伝也。雖然流通氣血却風邪ヲ清邪火ヲ補益腎水真陰目暗ノ患不可有之。

命門ノ相火タカブリ或ハ膏梁辛辣之物ヲ過食シ胃火盛ニ起り、目赤ク疼痛シ熱涙出ハ石膏ニテ瀉胃火ヲ涼肝熱ヲニハ柴黛六百ニテ清命門ノ火ヲ地黄ニテ滋血ベシ。

或少年壮歳ニヨラズ風眼ヲウレイ未ダ平癒ニ属セザル間淫事ヲ侵セバアカミモノカズ痛モ止マズ、目渋リ目眵多出也。然ル故ニ目疾悉平愈セザル間ハ房事ヲ忌ムベシ、強テ交合ヲ過シ、目ヲ患ル人、眼赤ク濁り翳膜サシ出ハ、淫事ヲ戒メ毒物ヲ慎メ、内薬ニハ地、六、芹、栢、芳、五加之類ヲ用ヨ。風熱ニ感ジ目アカク痛ミ并ニ頭痛シ上氣シテナミダ出ハ木賊、芸、羌、苓、連、地、芍等ヲ煎ジ服ス。大便結セバ桃虎ヲ加へ、痛甚ハ芹ヲ加ヘ地ヲ増ス、煩熱シテ眠ルコトヲ得ズンバ梔ヲ加ヘヨ、熱痛シ赤ク腫レバ柴、丁ヲ加へ、風熱上リ攻メ目ノ中ヘ木賊ヲ増セ。白晴腫テ痛甚ハ苛ヲ加へ羌ヲ増シ莎ヲ用ヨ。目赤ク痛ミマブタ爛レ渋テ開キ難キハ沈、荊、連、栢、倍、開元錢ヲ絹袋二入煎ジテ少シアツクヨキカンニ洗ベシ。日中ニ四、五度アタタメテアラフ。目痛マズ、爛レズ光ウスキハ毎晨起テ生塩少口ニ入、指ニテロ内齦フヲスリ、井花水一ロニテススギ唾塩水ヲアハビ貝二吐出シ、ソレニテシズカニアラフベシ、此ノ如ク怠ラザルトキニハ眼病マレニシテ老ニ至ツテ光明ラカ也。

 

このように両書は目次もほぼ同様で、 また、眼目門の本文についても語句の異なる個所が多少あるものの、全体的に酷似している。

 

眼病の治療法について両書には共通した以下のような記載がある。 

風眼の煎薬 〇(くさかんむり+下)、地骨皮、當帰、黄蘗、五加皮ノ類風熱ニ中リ目赤痛ミ頭痛シ上氣シテ涙出ルニハ木賊、羌活、黄苓、黄連、地黄、芍薬各等分

目赤ク痛ミ瞼爛レ渋テ開キガタキニハ沈香、荊芥、五倍子、黄連、黄蘗、開元銭等ヲ絹袋ニ入レテ煎ジ、熱カラズ好程ニシテ洗ベシ。

目痛ミモセズ爛レモセズ只光薄キニハ毎日早晨ニ起テ食塩少許ヲ取り指ニテロ中歯齦マデヲ摺リ、新汲水一ロニテ漱シ其水ニテ常ニ目ヲ洗バロヲ病ム事ナク老ニ至テモ光猶アキラカナリ。

龍脳散 炉甘石、龍脳、蓬砂、熊膽、軽粉

コノ五味ヲヨク研合ス、 ソレゾレノ證ニヨツテ加減スル。

 

目赤ク腫ルニハ没薬、外翳、内障ニハ真珠。爛痒ニハ銅青。悪血浮ヒ出テ甚赤ニハ竭血。甚疼痛ミ涙出ルニハ白丁香(スズメノタチフン)。

 

『辞俗功聖方』には刊本が見当らないようであるが、『授蒙聖功方』には古活字版を始め数種の整版が刊行されている。ここに紹介したものの他、『杏雨書屋蔵書目録』(昭和57年刊)などの図書目録によると以下のようなものが挙げられている。

 

辞俗功聖方 2巻2冊 室町期末 写本

同   2巻2冊 明治21年、宮崎石太郎写本

同   上巻1冊 慶長2年高麗写本

同   上巻1冊 写本

同   2巻2冊 天文19年 写本

 

授蒙聖功方 2巻2冊 古活字版

同     2巻2冊 「養生館」、「平出氏書室記」蔵書印

同    上巻1冊 活字刊本、横長無魚尾

同     2巻2冊 写本

同    下巻1冊 写本

同    2巻2冊 天正5年 写本

同    上下巻1冊 写本

同    上巻1冊 寛文4年 写本

同    2巻 天文14年

 

また、『本朝彫刻廣益書籍目録大全』第4巻、医書並外科之部(元禄5年梓刊、八尾市兵衛重校訂)には「聖功方、2巻、同増補5巻―渓叟」とあり、『梅花無蓋蔵』(江戸長田徳本著、江戸荻野元凱校、明治5年荻野氏、平安、台州園刊本)には『授蒙聖功方』の眼目門と同様な内容の記述が所載されている。

 

本書の著者である曲直瀬道三はその号を、天正2年以前は雖知苦斎、盍静翁、 また寧固と号したが、天正2年正親町天皇から“翠竹"の2字を賜り、“雖知苦"を“翠竹"と改め、斎号、奄号および院号をそれぞれ翠竹斎、翠竹奄、翠竹院と改めている。したがって天正2年以前の著作には雖知苦斎、それ以後の著作には翠竹奄などの号を用いたものと思われる。両書のうちいずれが先に著わされたものか、『辞俗功聖方』には刊本が見当たらないようであるが、一方の『授蒙聖功方』には古活字版始め、数種の整版、写本もあり、『辞俗功聖方』が先に著わされ、 これを改題したものが『授蒙聖功方』であろうか。

 

 

主な参考文献 ■

 

永田徳本著、荻野玄凱校: 知足斎梅花無盡蔵、巻下、明和5(1768)

矢数道明: 初代曲直瀬道三 年譜と逸話補遺, 漢方の臨牀、21巻1号、東亜医学協会、1974

矢数道明:  近世漢方医学史―曲直瀬道三とその学統 104258、名著出版、1982

武田科学振興財団:  杏雨書屋蔵書目録 臨川書店、1982

矢数道明:  曲直瀬道三生誕480年記念特集号 漢方の臨牀、34巻12号、東亜医学協会、1987

 

 

 

 

               

         図1 辞俗功聖方  下巻  刊記

 

 

 

            

                              図2 辞俗功聖方  下巻  識語

 

 

 

       

                   図3 授蒙聖功方  上巻  巻頭 (推定寛永)

 

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1996