研医会通信  177号 

 2020.1.27
研医会トップ 研医会図書館眼科
漢方科交通案内法人情報

 

研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 宜禁本草集要歌と眼(1)です。

宜禁本草集要歌と眼(1)

昔から医薬に本草が種々取り入れられ、その効用が認められてきたが、食物と本草との間にもまた極めて深い関係があつた。

 

食物と本草を取り扱つた古書には、曲直瀬道三(一渓)編『宜禁本草』(2巻)を初め、『宜禁本草集要歌』(7巻)、『和歌食物本草』(2巻)、『食物和歌本草増補』(7巻)など幾種かの本が著わされている。小稿では食物と本草との関係を歌でまとめた『宜禁本草集要歌』に所載された眼と食物について調べ、眼に関するものを摘録し、本書の紹介を兼ねた。

 

掲出の『宜禁本草集要歌』(外題:『本草歌』編著者未詳、刊本、丹表紙、29× 21.3cm)は上中下3冊よりなる。

上:巻1~3(巻1: 18丁、巻2: 14丁、巻3: 14丁)

中:巻4~5(巻4: 17丁、巻5: 17丁)

下:巻6~7(巻6: 27丁、巻7: 13丁)

 

この本の内容は動植物を米穀類、草類、菓子(コノミ)類、諸獣類、鳥類、虫類、魚類などに分類し、いろは順にそれぞれの性状能毒などを31文字(五七五七七)にて詠じたものである。

 

この『宜禁本草集要歌』は著者、刊年とも未詳であるが、寛永6(1629)年に曲直瀬道三編『宜禁本章』(2巻)の刊本があり、寛永7(1630)年に『和歌食物本草』(編著者未詳)が出版され、本書も『宜禁本草』に続いて寛永年間に刊行されたものと推測される。

岡不崩氏は古版本草書目解題(『本草』No.6、p.122)

の中で、

 

と系統を図示され、「宜禁本草は和歌食物本草(寛永本)に似たるもの、或は宜禁本草より次第に通俗的になりたるには非ざるか」と述べられている。

 

『宜禁本草』は乾坤2冊からなり、乾巻には五穀類、五菜類、五菓類、薬中草類、薬中木類、玉石金土水類、坤巻には獣類、諸禽類、虫魚類、追加三段には生熟諸穀類、生熟諸菜類、生熟諸菓類、諸鳥類、虫魚類、月禁、事林廣記月分食忌、合食禁、忌火、妊禁、服薬須禁食、水毒、草毒、木毒、獣毒、鳥毒、果毒などの項目を挙げて簡潔な記事にて食医を論じ、その用うべからぎる本草の種類を示し、動物の能毒を説き、用法、主治、禁忌などを記したものである。

 

『和歌食物本草』は上巻(45丁)、下巻(21丁)の2冊からなり、寛永7年12月開板、丹表紙、古雅本で、内容は動植物類を分類し、いろは順に草、菓子、獣、魚、鳥、虫、穀、木などの各部に分けて食物の宜禁、性状、能毒を31文字に詠じたものである。また『食物和歌本草増補』は山岡元隣(字徳甫、号而慍齋、抱甕軒)編、寛文7(1667)年、京都四条、水田甚左衛門尉開板で、全7巻7冊、22.5×16cmの大きさで、内容はいろは順に米穀、草、獣、魚、虫、鳥、菓の部などに分類し、食物の品種を挙げ、毎品和歌に詠じてその性効能毒を説示した(佐村八郎著、増訂国書解題)ものである。

 

こうしてみると『宜禁本草』を原として『宜禁本草集要歌』『和歌食物本草』『食物和歌本草増補』は和歌をもつて食物本草を詠じたものと思われる。

 

次に、本書に所載された本草歌の中から眼に関係あるものを摘録してみよう。

 

いちごこそ肝を補ひ目にも吉

木に生ずるを聖薬とする

 

鰯平腎を補ひ目にも吉

赤いわしは又中風にもよし

 

いかのわた鳥目の薬用べし

多く食して諸薬にもます

 

はしかみをはつきなが月食をするな

必春は目をばやみぬる

 

防風は微温にふかく上焦の

風をさるなり目を明にする

 

防風は頭風めまいや風熱し

泪も多く汗の出るに

 

蛤蜊は虚労痔に吉目の薬

腎を補ひ陰の痿に

 

にら胃の府不足補ひ泄痢やめ

よく眼目のうづきをば止

 

蒜はからくうんにて目にはいむ

食を消してけんべきを治す

 

になは常に食せよ上氣こそさぐる

目を明に陰をつよふす

 

辛螺(ニシ)を常に多く食すな

虚冷する目にはよき也少用る

 

玲(カモシカ)は目を明にする身のうちも

悪血ありて目のまふに吉

 

豆腐こそ腹のくだるに深くいめ

霍乱にも凶目には嫌す

 

鶏冠を常に食せよ目にも吉

心肺をよく補益こそすれ

 

鴟(フクロウ)は平てんかんに吉血のみちや

うはひそこひを奇特にぞ治す

 

とびはよく上氣をほぐす久服し

めを明に身をもりたてる

 

鴟の肝くしほしあぶり針を立

息にて萑目中障をもむす

 

〇(トベタ=虫+丸の下に真)はょく痰を消する虫積じゃ

血塊消し目を明にする

 

 

戸平冷目を明にし氣をくだし

過食は腹もくだりふくるる

 

茶は常に絶ずもちいて頭目耳

明にして上氣能さく

 

ぬかみそは目の煩に深くいむ

かすみ渋りて後くらく成

 

蕨菜寒甘く滑也過食して目もくらくなる

鼻もにほうる

 

わかめこそ欝氣を散ず目にも吉

肝腎の邪氣退きぞする

 

若菜平すゆり目に吉

肝謄の氣を涼し血をも補

 

かやのみは久しく食し百病にたたらづ

目をも明にする

 

かどのこは頭風の薬氣を下し

目を明に陰をおぎのふ

 

かたのりを頭風もあらば用べし

上氣をさげて目を明にする

 

たまりこそよろづ食物味をまし

諸毒を解して目を明にする

 

たてのみは目を明に水氣さり

強ては陽氣損じこそすれ

 

たうぢしやは歯のしやうをよく

根をつよく眠をさまし目を明にする

 

 

たにしめのまじりまがしら赤く痛み

泪も多く出るにぞ吉

 

田螺寒肝熱をさり目のうちに

赤筋出てうづき痛に

 

つくづくし血をうかす也肝動し

目もかすむ也百病の毒

 

土筆虫積じやには嫌ふべし

血もうき眼まけを生づる

 

               

  図1 宜禁本草(推定寛永版)

 

  図2 宜禁本草集要歌(推定寛永版)

 

  図3 和歌食物本草(寛永7年版)

 

       

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1997