研医会通信  179号 

 2020.3.25
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 医学士 南二郎先生講義筆録です。

医学士 南二郎先生講義筆録

明治期の医学生ノートの研究については、先輩諸先生の詳しい報告があるが、ここにご紹介するものは、南二郎(1857-1921)教諭が明治時代中頃、地方の医学校において講義したものを医学生(某)が筆録したものである。

 

南二郎教諭は明治16(1883)年7月、東京大学医学部を卒業後、岩手県甲種医学校教諭を始め、島根県医学校教諭、滋賀県大津病院副院長、福島県立病院副院長などを歴任しているが、岩手県甲種医学校一等教諭就任中は眼科と婦人科の医長を務め、明治18(1885)年3月、島根県医学校一等教諭に出向中は内科と婦人科を担当した。

 

この講義筆録はシュワイゲル、アイヒホルスト、ベルツらの原著によって眼科学、産科学、内科学などが講義されたものの記録であるが、何年に、どこで講義筆録されたものかは不明である。

 

南二郎が明治16年に東京大学を卒業して間もなく、岩手県甲種医学校に赴任した頃行った講義を医学生(某)が筆録したものと思われる。

 

この筆録書は全11綴より構成され、各冊は薄用和紙を紙コヨリにて仮綴したもので、毎半葉13行、四周双辺匡郭、有界、藍色刷用箋(京店船木板、郁文堂板)に毛筆にて片仮名、漢字混合で丹念に記されたものである。各冊に記された表題を挙げると以下のとおりである。

 

南二郎先生講義筆録

第1・2冊 眼科学 シュワイゲル原著 医学士 南二郎講義

第3冊 産科学

第4冊 皮膚病論

第5冊 診断学

第6冊 内科各論 全身病 アイヒホルスト原著 医学士 南二郎講義

第7冊 内科各論 血行機

第8冊 内科各論 神経系統諸病 末梢神経病 脊髄病 脳諸病

第9冊 伝染病

第10冊 内科各論 血行機諸病 ベルツ原著 医学士 南二郎講義

第11冊 内科各論 泌尿器諸病

 

筆録の第1、2冊は眼科学で、その原著はDr. C, Schweigger: Handbuch der Augenheil- Kundeで、つまリシュワイゲルの眼科書に従つて講義が行われたようである。シュワイゲルの眼科書は1871年に初版、1875年に3版、1893年に6版などと版が重ねられ、多くの読者がいたものと思われるが、わが国では須淮歌児原撰、坂井直常詳補「須淮氏限科必携」巻1~11(明治9~12年刊)が刊行されている(臨眼 42:10881089)。

 

眼科学講義の内容はおよそ以下の項目が挙げられ、それぞれ詳細に記述されている。

第1冊=結膜諸病、角膜諸病、鞏膜損傷、虹彩諸病、脈絡膜諸病、検眼術

第2冊=網膜諸病、視神経諸病、硝子体疾患、水晶体諸病、屈折器、近視眼、遠視眼

 

南二郎は東京大学に明治7年に入学し、同16年に卒業しているが、この間、東京大学の眼科講師にシュルッェ (Emil August Wilhelm Schultze)、スクリバ (Julius Kael Scriba)がおり、彼は眼科専攻ではなかったようであるが、両講師の講義を受けたものと思われる。

 

当時、東京大学を卒業した学士が地方の医学校に教諭や講師として招かれる例も少なくなかったが、彼もその一人で、 自分で学んだものとシュワイゲルやベルツ、アイヒホルストらの講義内容を地方の医学校において講義したものと思われる。このことは当時の地方医学教育に極めて必要であり、大変役立ったことと思われる。

 

この講義筆録は明治16年1月、わが国に日本人として初めて梅錦之丞が東京大学眼科教授に就任して間もない頃、眼科専門医以外の医師によって行われた眼科学講義筆録として珍重なものと思われる。

 

 

南二郎略伝

安政4(1857)年2月生、旧二本松藩士 山岡常右門次男

伊達郡下手渡村南持(旧立花藩医)の養嗣子

明治7(1874)年 東京大学医学部入学

明治16(1883)年7月東京大学医学部卒業

明治16(1883)年7月岩手県甲種医学校一等教諭

明治18(1885)年3月島根県医学校一等教諭

明治19(1886)年 滋賀県大津病院副院長

明治22(1889)年4月福島県立病院副院長

明治23(1890)年 私立南病院開設院長

明治40(1907)年11月福島県医師会長

大正10(1921)年4月2日 死去

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●主な参考文献

1) 秋永常次郎: 福島県医襍録, 1895
2) 福島県医師会: 福島県医師会史. 下巻, 679, 福島県医師会, 1981
3) 小関恒雄: 明治初期東京大学医学部卒業生動静一覧 (二). 日本医史学雑誌, 36: 229-247, 1990

 

 

   

図1 須淮氏(シュワイゲル)眼科必携 1876年版

       


  図2 同本扉と序の冒頭

 

  図3 序文つづき

 

 図4 同本 緒言 一表  

 

 

 図5 緒言つづき 一裏と二表

 

 図6 緒言つづき 二裏と三表

 

 

図7 緒言の最後頁と巻頭

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1997