研医会通信  206号 

 2022.7.1
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『済民記』です。

 

『済 民 記 』

 

室町時代の末期か ら江戸時代の初めにかけて、中国の金元 (季東垣、朱丹渓)医学の日本化に活躍した、わが国医学中興の祖と称せられる初代曲直瀬道三、二代目道三の父子についてはよく知られているところである。

 

二代目道三玄朔 (1549~1631)は初代道三一渓(1507~1594)の後を継いで医学の発展につくし、多くの医書を著 した。玄朔が25歳 の頃に著したと伝えられる医書の 1つが 『済民記』である。筆者らの手許にある 『済民記』について紹介する。

 

掲出本は次の 2点 (A、Bと する)で ある。

 

A.済民記、3巻 3冊 。

曲直瀬玄朔著。巻末年記 : 天正元歳次癸酉中(干U年不詳)。四周単辺匡郭、無界、毎 半葉 12行 、毎行字数 11~12字詰、漢字片仮名交 り和文。版心 : 上下魚尾、書名、巻数、丁数。四針袋綴、横型本 (14cm×20 cm)。原 装 表 紙。巻 1:57丁 、巻 2:61丁、巻 3:63丁 。

 

B.済民記、3巻 1冊 合綴

曲直瀬玄朔著。巻末年記欠(刊行年不詳)。四周単辺匡郭、無 界、毎 半葉 17行 。毎行字数不定。漢字平仮名交 り和文。版心 : 上魚尾、巻数、下魚尾、丁数、黒口。四針袋綴、横型本 (13.2×19.7cm)。原装表紙。巻 1: 36丁 、巻 2: 37丁 、巻 3 : 40丁 。

 

このように Aが 片仮名、Bが 平仮名交りの和文で記述されているという相違以外、A、Bは 書誌事項 も大同小異であり、内容的にはまったく同じである。

 

本書の内容概要を各巻の目録により記載すると以下のとおりである。

 

巻の1

1.中 風、2.傷 寒 (感冒)、3.痣 疾、4.痢 病、5.泄 潟、6.咳 嗽、7.喘 急、8.痰飲、9.木腫、10.脹満、11.積衆、12.翻胃、13.イツ (咳逆のこと)逆 、14.宿食内傷、15. 虚損、16.労瘵、17.汗 、18.怔悸、19.眩量、20.健忘、21.癲癇

 

巻の 2

1.諸蟲、2.頭痛、3.心痛、4.腹痛、5.腰痛、6.脇痛、7.疝氣、8.脚氣、9.痛 風、10.痿證、11.痺證、12.黄疸、13.消渇、14.中暑、15.霍乱、16.心痞、17.衄血、18.吐血、19.咳血、20.下血、21.秘結、22.淋病、23.遺尿、24.遺精、25.眼目、26.耳病、27.鼻病、28唇口舌、29.咽喉、30.牙歯。

 

巻の3

外科

1.癰疽、2.疔瘡、3.肺〇(やまいだれ+邑)、4.腸〇(やまいだれ+邑)、5。 臀〇(やまいだれ+邑)、6.楊梅瘡、7.便毒、8.乳〇(やまいだれ+邑)、9.瘰癧、10.疥癬、11.癩風、12.痔漏、13.折傷、14.救急。

 

婦人科

1.月経不調、2.帯下、3.崩漏、4.求嗣、5、妊娠、6.産後。

 

小児科

1.初生、2.吐瀉、3.腹脹、4、疳證、5.驚風、6.癇證、7.瘡癬 (附疳瘡、丹毒)、8.痘疹。

 

これら各病門 とも詠辨、治法、灸法、飲食の宜禁などについて記述している。眼目門においては虚実の辨、眼疾の治法、眼疾の方、眼疾の洗薬、目疾の点じ薬、眼疾の灸、飮食の宜禁などの項目が挙げられている。眼疾の治法には洗い薬、点じ薬とももっぱら膏、薬物の使用が認められ、小児の疳氣、雀目の治療に灸など施 している。飲食の宜禁においては、 よいものとして黒豆、黒胡麻、莧(一種の菜)、欵冬莖 (クワンドウノクキ)、榧(カヤ)、杓杞、五加、椒 、鰒(アワビ)、田螺、海螺 (ホラガイ)、風眼には葱 白、芥子、獨活 (ウド)が 挙げられ、 また禁物 として、酒 、油 、姜 、葫、胡葱、麺 、蕎麥、蕨 、鮎 、鯛 、鰤、鮭 、禽獣などが挙げられている。

 

本書 は前記のようにおよそ79の病門に分けて、その診断と治療法を簡潔に述べたものである。本書の末尾によると、王永輔『恵済方』、虞博天民『医学正傳』などか ら抜粋し、初学者のためにもわかりやすいように、片仮名を用いた和文で著わした旨の後書が記されている。

 

曲直瀬玄朔は天文 18年 (1549)京都に生まれ、本名を正紹、幼名を大刀之助、通称道三 (二代目)、東井と号した。本書のほか 『常山方』(12巻)、『延寿撮要』(1巻)、『医学天正記』(乾 :上下巻、坤 :1巻 )、『薬性能毒』(1巻)、『医方 (法)明 鑑』(4巻)等々多数の著作が伝えられている。また、慶長 9年 (1604)には歴代名医図の神農図に讃をしたためている (図4)。

 

『済民記』は曲直瀬玄朔が 25歳 頃の著作、すなわち天正元年 (1573)の成書といわれ、その後も元和、寛永、正保、慶安、明暦および天和年代の開版がみられ、約1世紀余の長い間広く読まれ活用された貴重な医書である。

 

 

主な参考文献

佐村八郎 : 国書解題. 吉川弘文館、1909

富士川浙 : 日本医学史. 日新書院、1943

服部敏良 : 室町安土桃山時代医学史の研究. 吉川弘文館、1971

矢数道明: 近世漢方医学史. 名著出版、1982

矢数道明: 東洋医学論集. 北里研究所東洋医学総合研究所、1986

小曽戸洋: 中国医学古典と日本. 塙書店、1996

小曽戸洋: 日本漢方典籍辞典. 大修館書店、1999

 

 

 

   図1 『済民記』後書年記(刊年不明) 

 

        図2  図1と同書眼目門

 

 

    図3 『済民記』 巻1 巻頭(刊年不明)

   

 

 

斎藤、中泉 2005