研医会通信  210号 

 2022.10.26
研医会トップ 研医会図書館眼科
漢方科交通案内法人情報
 

 

研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 『医法明鑑』に所載の眼病治療 です。

 

『医法明鑑』は二代目道三、曲直瀬玄朔(幼名: 大刀之助、本名:正紹、通称:道三、号:東井、 1549-1631)によって元和9年(1623)に著わされた(矢数道明)といわれている(本書の成立は

1608年以前説もある)。

 

本書(『医法明鑑』または『医方明鑑』)はその後、寛永5年(1628)、同13年(1636)、同18年

(1641)、慶安3年(1651)、同4年(1652)、万治3年(1660)、延宝3年(1675)などに刊行された模様で、医家をはじめ多くの人々によく読まれたものと思われる。

 

このように本書には数種類の版本が出されたとみられるが、筆者らの手許にある寛永13年、村上平楽寺版により、その眼目門に所載されている眼病の治療方法と薬物処方について略述する。

 

掲出の『医法(方)明鑑』の構成は次のとおり。

巻之一 1.中風門、2.傷寒門

巻之二 1.中暑門~27.中悪門

巻之三 1.頭痛門~25.損傷門

巻之四 1.破傷風門、2.瘍瘍門(1.癰疸~23.癩風)、3.救急門

巻之五 婦人上 1.月経、2.崩漏、3.帯下

胎前中 1.胎前~21.胎衣不下

産後下 1.産後~30.産後不治之三証

小兒 1.拭穢~51.痘疹

 

四周単辺匡郭、無界、毎半葉12行、毎行字数不定、送り仮名、返り点、振り仮名付、漢文体、4針和綴、5巻5冊(27.8cm×17.8cm)よりなる。

 

本書は全巻にわたって病門の医論や処方のはじめの部分に「玉」「林」「伝」「恵」(玉機微義、医林集要、医学正伝、恵済方)など出典の頭文字と思われる文字が付されており、多くの中国医書の引用が認められ、いわゆる金元医学を基に述べられた医書と思われる。

 

眼目門は巻之三、17に所載されているが、その記述の部分を挙げると以下のとおりである。

治療法の諸例としては次のような記載がある。

 

眼涙出テ止マラザルヲ治ス方

黄連ノ前濃汁二帛ヲ漬シテコレヲ拭フ。

晩二物ヲ見エザルヲ治ス方

鼠膽ヲ取テコレヲ點ズ。

常ニ目ヲ洗フ法

空心二塩末ヲ用イテ歯ニ楷り、ロヲ漱グ。

シバラクシテ水ヲ手中二吐イテ眼ヲ洗フ。

目ヲ令シテ明カニ夜細字ヲ見サシム。

稲麥ノ芒眼二入ルヲ治ス方

蠐螬ヲ取テ布ヲ以テ目ノ上ヲ覆フ。蠐螬ヲ持テ布ノ上二於テ之ヲ摩レバ其芒出テ布ノ上ニ著ク。

倒睫拳毛ヲ治ス方

木鱉一个殻ヲ去テ末卜為シ綿二裏ミ(つつみ)鼻ノ中ニ塞グ。左ノ目ニハ右二塞ギ、右ノ目ニハ左ニ塞グ。一二夜ニシテ其睫自正シ。

灸法

眼暗キニハ大推ノ下ニ灸ス。第十節ノ脊中ヲ数ヘテ二百壮多ヲ以テ佳卜為ス。

三里 目明ナラズヲ治ス。

人年三十以上ニハ三里ニ灸セズ。気ヲ令シテ上テ目明ラカナラシム。

風翳ニハ手ノ中指ノ本節ノ頭ノ骨ノ上ニ灸スルコト、五壮左患ニハ右ニ灸シ、右患ニハ左

ニ灸ス。

目卒二翳ヲ生ズルニハ大指ノ節ノ横文ニ灸スルコト。三壮左ニハ右二灸シ右ニハ左ニ灸ス。

小児ノ雀眼夜物ヲ見エザルニハ手ノ大指甲ノガド後一寸内廉横文ノ頭ニ灸スルコト。各一烓小児ノ疳眼ニハ合谷ノニ穴ニ灸ス各一壮。

 

また、 もろもろの眼病治療に有用な薬名ならびにその処方が記されている。

 

滋陰地黄丸

血弱陰虚瞳子散大物ヲ視レバ則チ花(はなさく)ヲ治ス。

生地一両半、熟地一両、柴八条、天門甘炙、枳、地骨、連、味各三ネ、参二条、歸身酒浸、芩各五ネ。コレヲ末ニシテ煉蜜ニテ丸シ茶清ニテ下ス。婦人二尤モ宜シイ。

 

このような例の如く益陰腎氣丸、地黄湯、當婦湯、補肝散、明目地黄丸、定志丸、地芝丸、六味地黄丸、益氣聡明湯、冲和養胃湯、還晴丸、明目流氣飲、復明散、秘伝撥雲退翳丸、當婦龍膽湯、石膏羌活散、明目細辛湯、助陽粒血湯、救苦湯、散熱飲子、四物龍膽湯洗肝散、菊花散、羚羊角散、潔古柴胡散、大青散、秦皮散、湯泡散、點眼春雪膏、退翳膏、光明丹などについて述べられている。

 

このように本書の眼目門には薬物による治療方法とその処方が主に挙げられているほか、 目を洗う方法、晩にものを見えにくいのを治す方法、倒睫拳毛を治す方法、小児の雀眼を治す方法など

諸々の眼病の療治方法についても述べらている。

 

初代一渓道三が、一般の人達が難解の漢文の医書に振り仮名、返り点を打って読みやすくした(矢数道明)という影響もあってか、玄朔は一般庶民の立場にたって、医学書の簡素化、大衆化にも努めたようである。

 

本書は多くの中国の医書、 ことに金元代の医学書を通して、その医学をわが国に紹介した、いわゆる道三流医学を普及させた貴重な医学書の1つであるといえる。

 

 

主な参考文献

富士川游: 日本医学史.日新書院、1943

矢数道明: 近世漢方医学史― 曲直瀬道三とその学統。名著出版、1982

小曽戸洋: 日本漢方典籍辞典.大修館書店、1999

遠藤次郎・中村輝子: 曲直瀬玄朔の著作の諸問題. 日本医史学雑誌 50:4、2004

 

 

 

 

 

 

   

   

   図1 『医法明鑑』A 巻一、二の2冊

 

 

 図2   上記図1同本の巻之一 巻頭

 

 

  図3 写本『医法明鑑』B 冬 表紙 


 

  図4 図3同本の巻四 婦人科 巻頭

 

 

  図5 図3同本 の 巻末玄朔の識語 

 

 

  図6 『医法明鑑』C 5冊 

 

 

  図7 『医法明鑑』C 巻頭 

 

 

  図8 『医法明鑑』C 村上平楽寺刊記

 

 

 

 

斎藤、中泉、林 2006