お灸のはてな?     漢方内科・形成外科医師   陳 暢宏 のコラム              

このコラムでは、研医会診療所の陳暢宏医師がお灸について書いていきます。

お灸は古くから、庶民の身近な養生法のひとつとして親しまれてきました。脚のだるさや肩こり、冷え性といった不調にも、また健康な方が未病の対策に行うこともあります。

昨今では直接皮膚に触れないタイプのいろいろなお灸グッズがあり、手軽にできるよう工夫がされており、若い女性向けのお灸の本さえありますね。初心者の方も、最初は診療所で経験し、お灸の良さをわかっていただいて、慣れてきたらご自宅でなさるといいでしょう。

 
 

お灸の作用(二)扶陽固脱

 漢方の古典では、以下のように書かれています。
「真気虚すれば人すなわち病み、真気脱すればすなわち人死す、命を保つの法、灼艾第一。《扁鵲心書》」
生命力の働きをする「気」が不足すると人は病気になり、「気」が体から離脱してしまうと人は死ぬ。命を保つ方法は、(よもぎ『艾』を燃やしてする)お灸が第一である、という意味です。
またこうも書かれています。
「下利、手足逆冷、無脉者、之を灸す。《傷寒雑病論・辨厥陰病脉症并治》」
下痢、手足が(正常な温かい状態に反して)冷たい、脈が触れないほど弱いといった者には、お灸をする、という意味です。
これらから分かるのは、体を温めて生命活動を活発にする「陽気」が、不足したり、落ち込んだり(不活発になったり)、離脱しようとする危機には、皆お灸を用いて虚脱しかかっている「陽気」を助けることが出来る、ということです。
臨床では、脱症(凡そ生命活動に必要な要素が虚脱した状態)や中気(胃腸の消化吸収力、中はお腹の「なか」です。)の不足、「陽気」の落ち込み(不活発)による尿漏れ、脱肛、子宮脱、不正性器出血、帯下(こしけ)、長引く下痢、痰飲(痰やその他浮腫など体内の不健康な水分貯留)などの治療に、お灸が多用されます。
以上のように、お灸の「扶陽固脱」作用とは、「陽気」をたすけ、虚脱しないように固めるということです。

 今回はいろいろな「気」が出てきました。「気」については、それだけで一冊の本が書けるほどの内容になるので、眼には見えない生命力の働き、という大体のイメージを持ってくださればいいと思います。

次回は(三)消瘀散血です。