研医会通信  256 号 

 2026.9.18

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研医会図書館は近現代の眼科医書と医学関連の古い書物を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の資料をご紹介いたします。

今回は テオフラストス 『植物誌』です。    

 
   
 

   

 図1 Theophrasti De Historia Plantarvm Lvgdvni 1522年 399P

 

    (テオフラストス 『植物誌』 リヨン) 

 

 

    右:『テオフラストス植物誌』 大槻真一郎・月川和雄:訳  ㈱八坂書房 1988年

 

 

テオフラストス 『植物誌』

 

 

 原著には、前308年の「オペラスの軍隊がカルタゴに進攻した時」とか、前306年から前299年にあった「デメトリオスの十一段櫂船」という文があり、この本が成立したのはそれより後の時代のことと分かります。所蔵の本は1522年にリヨンで発行されたもので、『植物誌』だけでなく、『De causis plantarum(植物原因論)』が合綴されています。

 

 大槻真一郎の『テオフラストス植物誌』の解説「三、『植物誌』について」には、この書物の構成が述べられ、第9巻には植物の液汁と薬効が扱われていると記されています。そして、古来第9巻については偽書説や論争があったことを解説しています。

 

 また、ディオゲネス・ラエルティオスによるテオフラストス著作目録には『植物誌』が10巻から成ると書かれているそうです。確かに、所蔵の1522年の本では、第9巻の次のページに第10巻 生薬学(Materia Medica)の冒頭だけが置かれ、

 

薬用となる根について、またそれらが根そのものの中に、あるいは樹液の中に、さらには植物のいずれかの部分において、どのような効力を有するかについて述べる。

また一般に、果実や草本植物のうち、そのような薬効を備えるものについても、この巻で説明することにしよう。

 

と書かれるものの、15行だけで終わり、その後には「テオドロスは、第10巻においてこれらのごくわずかな部分だけを翻訳した。そして、ギリシア語原本にもこれ以上のものは現存していない。」という3行のみ、センタリングされて付け加えられ、10巻が断片しか残っていなかったことを表しています。

 

翻訳本を読むと、この本が扱っている植物はギリシアだけでなく、中東やアフリカ地域の植物についても述べていることが分かります。第9巻の第1章には「インド産のアカンタがそうであるといわれ」というくだりがありますが、アレクサンダー大王の遠征に伴って行った者たちの研究内容も加えられている、といわれるように、はるかインドの植物についても研究していました。

 

インドの生薬学がギリシアにも渡っていた可能性はあるでしょうか? その植物を持ち帰る、あるいは持ち帰らずとも、興味を持つということは何かしらの利点があってのことのように思えます。医薬の情報は現代でもそうですが、あらゆる所に早く広まります。こうしたギリシアの生薬学は約300年後のプトレマイオスやディオスコリデスを経て、アラビアの医学へ入り、マテリア・メディカとなり、さらにくだってドイツなどの薬草研究につながっていくと思うと、古代から続いてきた人間の営みを大切にしたいと感じます。

 

 

参考までに、AIが訳した、第10巻の断片の文章を以下に掲げます。

 

日本語訳

第1文

薬用となる根、およびそれらが根そのものの中に、あるいはその液汁の中に、さらには植物の他の部分においてどのような効能を有しているかについて述べようと思う。

また一般に、果実や草本植物のうち、そのような効力を授かっているものについても、この巻で説明することにしたい。

さらに、液汁や香気がどのような差異によって区別されるかについても省略すべきではない。


第2文

自然が根にきわめて多くの効能を与え、それらをさまざまな用途に適するものとしていることは、容易に理解できる。


第3文

しかし、その中でも特に治療の力をもつものについては、人間の知恵がそれらを探し出し、最も有用なものとして利用してきた。


第4文

これらの効能は、前巻で述べたように、すべてが同じ対象に対して、あるいは同じ仕方で働くわけではない。


第5文

したがって私たちは、多くの根がその効力を根そのものの中だけでなく、果実や樹液の中にも保持していることを見る。


第6文

しかし葉の中にもその効力を有するものが存在する。

そして葉に備わる効能をもつ植物については、薬草家たちはその多くを「草薬(herbae)」と呼ぶのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        図2  同本 背表紙

 

        図3  同本 革の表紙

 

 

               図4  同本  第9巻の始まり

 

 

         図5 同本 第10巻の断片(左)と『植物原因論』の始まり(右)