その『小眼科学』、『中眼科学』とは如何なる翻訳書であったのか、次にその概略を示そう。
『小眼科学』 独逸国伯林大学教授 Paul Silex原著
日本陸軍二等軍医正医学博士 保利眞直訳補 全1冊 307頁 挿図61
明治32年12月1日 南江堂他発行
第Ⅰ編 緒論
第1章 診査方鍼
第2章 視学的器械
第Ⅱ編 眼科各論
第1章 屈折機及調節機異常
第2章 眼筋諸病
第3章 眼瞼諸病
第4章 涙器諸病
第5章 結膜諸病
第6章 角膜諸病
第7章 輩膜諸病
第8章 虹彩諸病
第9章 水晶体諸病
第10章 眼の胎生学的概論
第11章 眼窩諸病
第12章 毛様体及硝子体諸病
第13章 脈絡膜諸病
第14章 緑内障
第15章 網膜諸病
第16章 眼官能障害
第17章 視神経諸病
第Ⅲ編 手術
通論
甲 副器二於ケル手術
乙.眼球二施ス手術 附 眼目損傷二際スル災害計算法
鉄道吏員及兵員二対スル視力検定法
眼科用薬剤
『眼科学全書』(別称中眼科学)
独逸国ギーセン大学眼科学教授フォシウスVossius)
原著『Lehrbuch Augenheilkunde』(1898)
日本陸軍二等軍医正 保利眞直氏訳述 明治37年(1904)南江堂出版 全4巻4冊
巻1(324頁 挿図83)
第Ⅰ編 眼病ノ検査、診断、原因及療法汎論
第Ⅱ編 眼科学各論
第1章 屈折機及調節機異常
第2章 眼筋障害
第3章 眼富疾患
巻2(285頁 挿図84～130)
第4章 眼瞼疾患
第5章 涙器疾患
第6章 結膜疾患
第7章 角膜及輩膜疾患
巻3(348頁 挿図131～197)
第8章 虹彩毛様体及脈絡膜疾患
第9章 水晶体疾患
第10章 硝子体疾患
第11章 網膜疾患
巻4(294頁 挿図198～236)
第12章 視神経疾患
第13章 弱視及黒内障
第14章 緑内障及眼球軟化症
第15章 視器損傷
索引(五十音順)
保利眞直氏著訳書の主なものに
『眼科学』(巻1-3)明治23年(1890)～明治25年(1892)刊 『
携帯眼鏡嚢解』 明治23年(1890)刊
『眼科学講本』 甲野、保利、井上(通)共著(Vossius原著)明治26年(1893)刊
『検眼表彙及解説』 明治26年(1893)刊
『小眼科学』(Silex原著) 明治32年(1899)刊
『眼底図譜』(Haab原著) 明治33年(1900)刊
『眼科学全書』(Vossius原著) 明治37年(1904)刊
『保利氏屈折検眼鏡解』 明治41年(1908)刊
『交感性眼炎』 明治44年(1911)刊
等を挙げることができるが掲出の『眼科学』は前述の如く多くの西欧諸書を選んで保利氏が纂著した眼科書で、明治14年に醗訳された榊椒氏『眼科学』と、明治26年に著作され、一世を風靡した河本重次郎氏(1859～1938)『眼科学』との間に纂著されたことになる。内容的には19世紀後半の西欧眼科学を広く集めて著わされた眼科書とみることができる。本書(巻2)に掲げられた石黒忠眞氏(1845～1936)の叙に「…眼科学十巻ヲ著シ世二公ニス…」とあるが、掲出本(巻1～ 3)以外に何巻まで出版されたものか不明である。その完結は有名なグレーフェゼーミッシェ眼科全書のような大書を目標に著述が進められたものであろうか。
主な参考文献
小口忠太: 保利眞直先生小伝 実眼、13、302、東京、1930
北島規矩朗: 陸軍々医學校五十年史563陸軍軍医学校、東京、1936
小口忠太: 日本眼科五十年略史(二)綜眼38.711、東京、1943
福島義一・山賀 勇: 日本眼科全書.眼科史.金原出版、東京、1954
宇山安夫: わが銀海のパイオニア306.千寿製薬、大阪、1973
いくつかの画像はクリックすると拡大します。ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください。
図5 眼科学全書(巻1-4)表紙 Vossius原著 保利眞直詳述 明治37年刊
図6 図5同書(巻1)巻頭
図7 LEHRBUCH DER AUGEN・ HEILKUNDE扉 Vossius著 1898年刊(3版)
図8B Flemming氏眼球断面図 図5、図7同書所載 236図
図９ 『眼科学全書』のカバーには第一巻から四巻までの目次がある。
また、裏側には森林太郎（森鷗外）の『衛生新編』の広告がある。
中泉、中泉、斎藤
