研医会通信 189号 

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2021.1.27

今回は トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(1)  です。

 トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(1)

 

 日本トラホーム予防協会は、大正4(1915)年4月18日に医科大学(現東大)法医学教室にて創立総会が開かれ、翌大正5(1916)年4月1日に、東京帝国大学(現東大)法医学教室において発会式が開催されて、わが国のトラホーム予防撲滅を目的として創設された。その機関誌として「日本トラホーム予防協会会誌」が発行された。

 日本トラホーム予防協会はトラホーム予防と撲滅に関する種々な事業を行ったが、機関誌の発行をはじめ「家庭とトラホーム」、「トラホーム予防の心得」、「学校とトラホーム」、「絵入トラホーム」などの啓蒙書を製作。発行し、また予防映画、 トラホーム眼蟷製模型、 トラホーム予防宣伝用模擬舞台も製作された。そこで今回は機関誌や啓蒙書に掲載されたトラホームの唱歌、都々逸を紹介しよう。

 日本トラホーム予防協会の機関誌である会誌は、協会の名称が改められるたびに会誌名も変更された。日本トラホーム予防協会から日本失明予防協会(日本トラホーム予防協会が母体)に至る誌名の変遷をみると、以下のようになっている。

「日本トラホーム予防協会会誌」
No.1   大正 5年3月18日
No.2    〃  6月12日
No.3    〃  9月22日
No.4    〃 12月30日
「会誌」
No.5   大正 6年3月29日
大正 9年7月23日協会への財団法人認可
「会誌」
No.19     大正9年9月28日
「会誌トラホーム」 No.20 〃 12月28日
LA TRAHOMO トラホーム会誌
No.44~45 昭和5年11月
「LA TRAHOMO トラホーム会誌」
No.65昭和16年2月25日

 日本トラホーム予防協会会誌は昭和30年6月15日より昭和39年7月まで『臨床眼科』(Vol.9  No.6~Vol.18 No.7)に毎号掲載、発行された(戦中戦後にかけて協会が休息状態だったため)。
「トラホーム会誌」
No.66(復刊No.1.)
「LA TRAHOMO」     昭和32年5月
No.75(復刊No.10・11)   昭和50年4月

 財団法人日本ウイルス眼炎トラホーム予防協会より「ウイルス眼炎会誌」(旧トラホーム会誌LA TRAHOMO)
No.76(復刊No.12)
昭和51年5月~No.83(復刊No.19)昭和59年10月まで発行された。

 昭和60年財団法人日本失明予防協会が厚生省より認可され、昭和62年日本眼衛生協会は発展的解消を遂げ、財団法人日本ウイルス眼炎トラホーム予防協会とともに財団法人日本失明予防協会に統合された。

財団法人日本失明予防協会会報
「失明予防」
Vol.1、No.1  昭和63年12月~
Vol.13、No.1平成12年6月

 このように日本トラホーム予防協会会誌は再三の改名を経て、今日、財団法人日本失明予防協会会報「失明予防」となって発展的に刊行されている。

● 通俗「トラホーム」唱歌
嶋根縣八東郡医師会作製
卜. 「トラホーム」といふ眼病は、眼病中の悪病よ、撲滅さでおくときは、国の仇ともなりぬべし
ラ. 癩病肺病怖けれど、轉瞬間に蔓延りて、人を傷ふ害毒は一入こわし「トラホーム」
ホ. 細き小さき顆粒は、眼瞼の裏に叢々と、例令ていへば鰊子か、赤き覆盆子にさも似たり
ム. 叢り発生し「トラホーム」、はじめは痒く摩擦うち、終には角膜に翳かゝり、盲目となるも稀ならじ
ヨ. 豫防の法に努めなば、かく恐ろしき眼病も、禦げぬことのあるべきぞ、努め怠るな豫防法
バ. バケツ、ハンカチ、洗面器、其他患者の手や顔や、殊に眼を拭く手拭を、倶に使へば直ぐ感染る
ウ. 感染らぬ先に防くドそれぞ眞正の豫防なれ、あわれ世間の父母よ、まづ家庭より注意 せよ
チ. 幼稚小児の集合れる、学校などはなほさらに、流行感染のせぬように、注意監督おこたるな
レ. 療治はとかく遅れがち、眼脂眼かすみ痒くなり、わけてコロコロする時は、速に診察うけて看よ
ウ. 運悪くしてうつりなば、其身自愛はいわずもよ、家族や他人に遠慮して、早く治療をして癒せ

● トラホーム唱歌
茨城縣警察医 斎藤正邦 作
(1)
傳染性眼疾なる事
誰れも大事な、眼の検査
今日学校で、 うけました
兄の太郎さん、 トラホーム
弟の次郎さん、 トラホーム
なかなか多い、 トラホーム
患者の眼から、出る眼脂を
つけるとうつる、眼の疾病
うつらぬやうに、氣をつけて
うつれば早く、治すやう
先生のおはなし、ききました

(2)
傳染の実例
兄の太郎さん、限をふいて
手拭に眼脂が、つきました
それで次郎さんが、顔ふいて
次郎さんうつった、 トラホーム
ニ人の隣りの、花子さん
まい朝まい朝、姉さんが
洗ふたたらいで、顔あらひ
いつしかうつった、 トラホーム
さてさてこわい、 トラホーム

(3)
豫防上の注意及早期治療の必要なる事
太郎さん次郎さん、兄弟は
お医者にまい日、ゆきました
そして手拭を、顔洗う
たらひとみんな、わけました
眼をばいじった、そのときは
きっとその手を、よくあらひ
よくよく療治しますると
やがて太郎さん、次郎さんも
すつかり治って、学校へ
愉快に通ふて、行きまする

(4)
続發症を来すの例
さてお医者にも、かからずに
豫防もしない、花子さん
知らぬあいだに、だんだんと
病疾が重く、なりました
水晶のような、眼のたまに
煙りの様な、うす雲が
上の方から、できてきて
おいおい下へ、ひろがって
学校にいっても、黒板の
文字が視にくく、なりました

(5)
失明する事あるの例
大そうひどく、なったので
お父さんやら、お母さん
心配なされて、あちこちと
眼のお医者へと、かけました
されどかなしや、手後れで
最早くもりが、 とれません
お氣の毒なは、花子さん
杖にすがりて、よぼよぼと
歩く盲目に、なりました
さてさてこわい、 トラホーム

 

●「トラホーム」の歌
石川縣 高口保太郎
卜. 父さん母さん眼病で、一番怖いは何んでしょ
ラ. 楽に苦なしに人から傳染り、治療の遅い「トラホーム」
ホ. 白斑が現はれ潰瘍つかぬ、さきに療治を怠るな
ム. 無暗と眼脂の出るときが、傳染力のつよいとき
ノ. 呑氣に人と品物の、貸借するな氣をつけよ
ウ. 運があしくて停染ても、人にうつすな此難病
夕.  太郎さんかしこい此歌を、覚えて大事の眼を衛れ

 

 

 図1 日本トラホーム予防協会会誌の表紙
    (大正6年3月発行)

 

 

   図2  日本トラホーム予防協会会誌の表紙

     (大正9年12月発行)

 


 

 


 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  1999