研医会通信 190号 

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2021.2.26

今回は トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(2)  です。

 トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(2)

 

トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(2)

 

●トラホーム唱歌

陸軍々医学校教官  長野文治 閲

陸軍二等軍医正   横井忠国 作

 

畏れて避けよ「トラホーム」

ゆめ侮るな「トラホーム」

威風凛々しき益良夫も

容色すぐれし手弱女も

此病毒に感じては

顔を醜くく爲すのみか

学芸家業任意ならで

不幸をかこつ身とぞなる

佛蘭西・自耳義・埃及の

歴史に残る例を看よ

軍の力国の富

皆此の爲めに殺がれたり

アナ恐ろしや「トラホーム」

アナ忌はしや「トラホーム」

今我国もこの病

年一年と蔓延し

統計表に據るときは

五人に一人ありと言ふ

学校生徒や軍人は

検査を受くる便あるも

其他の人は知らぬ間に

病みつつ在らん危険さよ

そも此の病の容体は

眼瞼の裏にむらむらと

細く小さき顆粒の

心地悪くも發生し

初期はむづ痒く

埃の如くコロつきて

眼脂に流涙薄がすみ

眼精疲労あるもあり

眼には疲労を覚えきて

漸々進み角膜に

曇翳をかくる事となる

眼瞼の爛れ逆睫毛

病眼流行眼逆上眼と

種々に姿を変へゆきて

果は盲となり畢る

斯く長ろしき眼病も

常に注意を怠らず

豫防の法に努めなば

防げぬ事のあるべきや

手拭ハンケチ洗面器

其他患者の眼や顔に

觸れたる品は何にても

共同に使用へば感染るなり

總べて不潔は敵にして

皆傳染を媒介す

殊に手顔を清潔にし

此病毒を豫防せよ

さして苦痛のなきままに

とかく療治は後れがち

手後れしては何病も

容易に癒えぬものぞかし

されば異状を知り次第

直ちに早く手當せよ

都の人も鄙人も

豫防治療に努めよや

賤しき人も貴きも

豫防治療に勉めよや

 

●トラホーム数へ歌

         廣島市学務課

一つとや 廣くはびこるトラホーム  国をほろぼす敵なるぞ  (繰返)

二つとや フランス皇帝奈翁奈戦に負けしも 之れが爲め  (繰返)

三つとや 未開の誹りはトラホーム (繰返) 御国に多きぞ口惜しき (繰返)

四つとや 四人の盲の其のもとを (繰返) さぐれば一人は此の病 (繰返)

五つとや 埃及・露西亜。自耳義 (繰返) 支那や日本は流行地 (繰返)

六つとや 昔しはやりし獨佛も (繰返) 今では僅かに影ばかリ (繰返)

七つとや 長くかまはず捨て置けば (繰返) 終には不治の症となる (繰返)

八つとや 病の中で此病 (繰返) 軽く見すごす人多し (繰返)

九つとや 小供大人の区別なく (繰返) 不潔人なら襲なリ (繰返)

十とや  富も位も月花も (繰返) まなこあっての楽みよ (繰返)

 

 

●トラホームの唱歌

   石川縣金澤市立学校医 高口保太郎 作

(“モシモシ亀ヨ"の節)

1 もしもし太郎さん花さんよ

2 眼病の中で「トラホーム」ほど

3 傳染の易いものはない

4 そうして治癒の遅いもの

5  なんといやな病氣だろう

6  そんならどうしてうつるのか

7 「トラ」眼の人の眼脂涙

8  附いた品物からうつるのよ

9  賢い太郎さん花さんよ

10  成るだけ借るな他人の物

11  腰には手拭忘れずに

12  時々丁寧に手を洗へ

13  毎朝奇麗に眼を洗へ

14  眼脂が出たら直ぐ様に

15  お医者に願つて診て貰へ

16  油断をせずに療治せよ

17  兵隊さんにもなれないよ

18  盲人になった人もある

 

 

●通俗「トラホーム」の歌

    新潟縣直江津 堀川又蔵 作

1)一度眼目を失はば

 世の中凡て闇黒にして

 生計の業や学問の

 不便はいとど彊増して

 花鳥風月いたづらに

 心を痛む許りなり

2)眼病みも多くある中に

 トラホームとて眼の瞼裏に

 粟粒出て治し難く

 知らず知らずに歳を経は

 角膜睫毛涙管孔

 故障を起す病あり

3)眼脂の中に毒ありて

 傳染性を有しつつ

 手拭ハンケチ洗面器

 汚き手指を媒介し

 一家一人罹る時

 多く全家に及ぶなり

4)いとも軽きは唯少し

 眼脂の心地ある位

 霞み痛みも覚えずに

 看る眼は常に異ならず

 眼病ありと自も

 知らで過すぞ多かりき

5)此時瞼裏見るならば

 血脈張りて粟粒の

 眼角辺にひそみたる

 いと小さきを認めつつ

 始めて知れるトラホーム

 驚きのみぞ先きに立つ

6) 眼の瞼裏上下悉く

 粟粒ならぬ虎なく

 恰も鶏冠の如くにて

 眼脂も多く涙出て

 次第に次第にかすみ来る

 之ぞ重症トラホーム

7) かく重症になる時は

 全治るに一年又一年

 数年かかる其のうちに

 続發病等の末る時は

 人間一生五十年

 眼病みとなりて終るあり

8) 一夜の内に腫れ眼して

 自球凡て血の如く

 砂咸眼脂の出るありて

 俗に言ふなる流行眼も

 種類五六種あるなれど

 一部は急性トラホーム

9) よく老人の癖に言ふ

 眼性悪ろしと縁赤く

 トボトボ眼力なく

 角膜にも雲のある物は

 頑固の症に変じたる

 多くは陳舊トラホーム

10) 病初めや軽き中

 永く治療を施さば

 多分は全治るものなれど

 一朝績嚢病起す時

 視力は次第に害されて

 重は盲目となりぬべし

11)續發病に来る敷々は

 星目ただれ日垂簾翳

 倒さ睫毛や乾き眼に

 涙の孔の閉塞や

 角膜潰瘍に至る迄

 原因は一つのトラホーム

12) 眼脂の毒に鯛れぬ様

 自用の手拭供置き

 常に洗ふて清潔にし

 汚れし物は眼につけず

 僅かの注意をなす時は

 大なる豫防となる者ぞ

 

13) 病根二葉に刈らずんば

 悔るも及ばぬ事あらん

 いざ思ひ立つ其日より

 治療をなすに如はなし

 全治は他人の鶯ならず

 身の爲なるを思ひ見よ

 

 

 図1 トラホーム予防宣伝提供資料目録の表紙 (昭和11年11月発行)

 

 

 


 



  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  2000