研医会通信 191号 

研医会トップ 研医会図書館眼科
漢方科交通案内法人情報
 

研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

2021.3.29

今回は トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(3)  です。

 トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(3)

 

「トラホーム」豫防治療宣傳鴨緑江節

奈良市西部トラホーム治療所

1)治療宣傳

  トラホーム, かかれば早く, 治療うけよ

  目星, パンヌス, アノサカマツゲ, ヨイショ

  油断する間に ヨコリャ 重くなるヨ

  ■■■に マタ ならぬように身の要心

  チョイチョイ

2) 豫防宣傳

  トラホーム, 家内にでれば, はや氣を附けよ

  手拭, ハンカチ, アノふろの中 ヨイショ

  油断する間に ヨコリャ みなうつるヨ

  うつりゃ マタ めいわく身の要心

治善い治善い

3) 豫防宣傳

  トラホーム, みなさん豫防は第一よ

  官界, 教育, 軍隊もヨイショ

  如何なる希望も ヨコリャ 泡となるヨ

  常に マタ うつらぬように氣を付けよ

  チョイチョイ

 

 

● 『トラホーム」の歌

          千代村作

1)仰げば高くそそり立つ 四層五層の高どのも

  かの恐ろしき白蟻の 害に委せば倒るべし

2)此の惨害にも比ぶべき 暴威をふるふ「トラホーム」

  一旦我身にうつりなば 終生これに苦しまん

3)知るや昔の「ナポレオン」 重ね重ねの戦勝に

  湧きたつ心おさへかね 「エヂプト」討ちし其の砌

4)天は奈翁を懲らせしか 勇武の将卒悉く

  當時その地にはやりたる 「トラホーム」にぞ襲はれぬ

5)弾丸盡きしにはあらざれど 剣折れしにあらざれど

  虎眼の害に敵し兼ね 遂に勢をぞ退きにける

6)かつて削りし「不能」の字 再び辞書に添へじめて

  驕りし心悔みたる 昔語りも哀れなり

7)あゝ恐ろしき「トラホーム」 眼脂こそ病の因をなす

  患者の持ちし器具の類 觸らば我も眼を病まん

8)痩せし腕に杖引きて 巷に迷ふ盲人の

  千度の悔の其の度に 虎眼の害を思ふらん

9)いでや世の人諸共に 衛生の道辿りゆき

  自重自覚の意もて 豫防治療に勉むべし

10) 瑠璃の眼光智に映えて 世界の文物一眸に

   眺め渡して我れにとり 皇国の基礎を固むべし

 

● トラホーム豫防治療宣傳歌

                  南有馬治療所職員作詞作曲

A. 廣くはびこるトラホーム  国を滅す敵なるぞ

  フランス皇帝ナポレオン 負けし戦もこれがため

B. ロシヤ エジプト ベルギーや 支那や日本は数多し

  治療に努めし獨佛は 今じゃ影なすトラホーム

C. 各国いやがる此の病 御国に多きぞ口惜しや

  四人の盲の其のもとを さぐりゃ一人はトラホーム

D. 軽症疑症結膜と 軽く見過ごす人多し

  永くかまわず捨て置けば 果ては治らぬトラホーム

E. 富も位も月花も ただ一色にぬりつぶし

  子供大人の差別なく 闇に泣かすはトラホーム

F. 早くなをして国のため 治療を続けて己がため

  共に誘ふて忘れずに いざ行きましょう治療所へ

 

 

● トラホーム唱歌

         福井縣今立郡学校衛生研究会選

         清水春松作(鉄道唱歌の節)

1)ひろくはびこるトラホーム 国をほろぼす敵なるぞ

  四人の盲目そのもとを たゞせば一人は此の病

2)そも此の病の容態は 眼瞼の裏に顆粒が出来

  眼脂や涙やうすかすみ 瞼縁は爛れ逆睫毛

3)捨てて構はず過しなば 黒目に翳や潰瘍が出来

  終には盲目の仲間入 あな恐しや「トラホーム」

4)病のもとは眼脂涙 附着いた物品からうつるなり

  手拭ハンカチ洗面器 其他借るな他人の物品

5)手後れせずに療治せよ 容易く治るものぞかし

  努めて常に豫防せよ 勉めて早く手當せよ

 

 

● トラホーム豫防宣傳の新作都々逸

          山形縣警察医 杉山作

1.二つあるとて油断をするな 目程大事なものはない

2.一等国よの誇りの名さへ とられましょぞえトラホーム

3.繁る民草六千萬の 六つの一つはトラホーム

4.文明国よと誇って居れど 国にはびこるトラホーム

5.病毒は眼脂にあるトラホーム 防ぎやたやすく防がれる

6.罹りゃ療治を怠るまいぞ コジれ易いはトラホーム

7.手先清めて仲ばすな爪を 爪や手先に病毒ひそむ

8.貸すな借るな手拭などを うつすうつさるトラホーム

9.神や佛に願かけしても 癒るまいぞえトラホーム

10.国の為だよあのトラホーム いつか根絶やししてみたい

 

 

● トラホームの歌(都々逸)

千代村作

○飽かぬ飽かれぬ二人の不義は, 切らなきゃならぬ「トラホーム」

○主の浮気に我慢が出来ぬ 医治でなほさにゃ「トラホーム」

〇世の味氣なさに煩悩を, 結ぶ縁の手綱もて, 駒澤慕ふ盲いごの,
 闇路を辿る夕顔が,杖に絡まれ訪ねしも,
 本意なき殿御の空あしらい, 眞顔見えずに苦説もならぬ,
 ほんに憎らし「トラホーム」

 

 大正8年(1919)に発布されたトラホーム予防法が,トラホームの激減により, 昭和58年(1983)に遂に廃止された。この激減の陰には, トラホームの予防撲滅に掛けた多くの人びとの底知れぬ情熱があった。 トラホーム予防撲滅運動のために作られたこのトラホーム唱歌には,その熱意が刻み込まれているように思われる。

 

(注)このトラホームの歌は作製当時のものをそのまま記載したので支那, 軍隊, 盲人など適切でない言葉が用いられているがお許し願いたい。

 

参考文献

1)小川剣三郎: 通俗眼乃はなし. 博文館, 東京, 1902

2)光 藤介: 通俗眼の養生法. 宝文館, 東京, 1905

3)眼科臨床医会(編): 眼科臨床医報9輯

4折195, 1914

6折F247, 1914

7折288, 1914

12折474, 1914

4)赤松秋太郎: トラホーム豫防に関する調査報告. 内務省衛生局, 1929

5)日本トラホーム豫防協会(編): トラホーム会誌No.1~ No.65, 日本トラホーム豫防

  協会, 1916~1941

6)中央盲人福祉協会(編): 全国盲人保護並失明防止事業会議報告書. 中央盲人福祉協

  会, 1931

7)福島義一: 日本眼科全書1巻, 日本眼科史. 金原出版, 東京, 1954

8)日本ウイルス眼炎トラホーム豫防協会(編): トラホーム豫防協会のあゆみ. 日本ウ

  ルス眼炎トラホーム豫防協会, 1985

9)日本眼科学会百周年記念誌編纂委員会(編): 日本眼科学会百周年記念誌6巻。 日本

  眼科学会, 1997

 

 図1 トラホーム予防宣伝用ポスター、パンフレット類 
         (昭和10年頃発行)

 

 図2 トラホーム予防宣伝用パンフレット  

 

 


 



  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  2000