研医会通信 194号 

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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

2021.6.25

今回は  眼科便覧(眼目治療手引草) です。

 眼科便覧(眼目治療手引草)

  

江戸時代の眼科諸流派の秘伝書にはいろいろの形式のものがあるが、便覧形式のものは少ないようである。享保年代?に便覧形式に似た眼科書に藤井見隆纂輯、長岡丹堂校正の『眼科医療手引草』がある。

 

『眼科便覧』は外題に『眼科便覧』、内題に『眼目治療手引草』と書かれた眼科書で、全1冊(29葉)、漢字、片仮名交りの和文、四針和綴の写本より成っている。

 

本書の内容は病名主方目録を掲げ、その順序に従って簡単な解説が付けられたもので、眼科治療便利帳といったところであり、幕末頃の写本と推測される。

 

まず、病名主方目録には以下の見出し項目が列挙されている。

眼目病状井主方

掛差洗薬方

打目突目疼目

星薬

血目ムシ薬

人見ノヒラキタル内薬

鳥目

男女内障薬

男女ノ目血道起目

目赤頭痛上気涙出

冷目

病目熱目

目シブリマブタ赤クタダレ痛、サカマツゲ

薬掛様

サカマツゲ爛目

目瘡薬

外障クサリ薬

冷目ムシ薬

一切目腫痛

一切目血ヨリ煩

妊娠女目痛

上熱目痛

身熱目ニクサノ出

風眼病目熱目

明眼地黄湯

白眼赤カユク風ニ向ハ涙

八眼ノ點

疳眼薬

イモ目

星退薬

目ノ血取様ノ事

済薬

上気目爛目

星退散

虚眼洗薬

上痺薬

病目洗薬

目ノ血下薬

同洗薬

爛目洗薬

爛目薬

針立ノ事

血下シ

禁物好物ノ事

虚眼鳥目黒花

マケ切薬

目大疼痛

一切目ノ薬

爛目差薬

風眼妙薬

星上痺掛薬

同内薬

実目洗薬

内障薬

虚眼内薬

病目差薬

目疼痛

突目

風眼見様井内薬

龍脳散七種ノ内ソコヒ薬

真珠散外障吉

外疱麿目

爛目ニヌル薬

灸黙之事

業性

営流石薬之性

両目ノ事

痺眼

大真珠散血多出星目吉

丹珠散血多外障

針ヲ立跡ノ薬

目ノ内下ス薬

外障掛薬

ヒウソ疵ヨリ痛タマラザル

目ノ血取様ノ事

上気目腫痛物出

 

次に限日病状丼主方には青内障、黄内障、血内障、自内障、黒内障、 ヒマケ、ハイマケ、六ヶ敷マケ、大事ノ目、スダレマケ、痛有目、風眼、ウハビ、大二痛コト有大事ノ目、サカマツゲ、 フジマケ、星目、黒眼ノ内二星出タル目、月ノ輪、小児疳ノ目、大風毒などおよそ30個の眼目病状を彩色絵図により示し、その治療方、薬の処方を簡潔に記述している。

 

例えば白内障のところには、『この目ハ白内障也、薬ニハ明眼、明珠卜相交テー日八度可掛、百卅日程ニテ良、但シ人見ノ内に黒所ナキハウシタル目ナリ、ハリ吉、人見ノ色白キモノナリ』のように、主に薬種療法を記述している。

 

また、禁物、好物の種類には以下のようなものが挙げられている。

禁物: 揺、酒、湯、力、行、声、火、風、自物、細キ物ヲ見ルコト、モチ、ソバ、

メンルイ、ニンニク、ハシカミ、生米、生大根、カラシなど

好物: イリコ、クシヨ、鰹節、アワビ、サザイ、鯉、 コチ、カレイ、キス、サヨリ、

アジ、鮎塩、ホシ大根、ホシナ、小豆、ササゲ、牛房、 ゴマ、ナツメ、

フキ、ハモ、ガン、ウサギ、山椒など

 

これら禁物、好物の種類も馬島流眼科など眼科諸流派のものと共通のものもあるが、それぞれ各流派の間で少しずつ異なっている。

 

このように本書は、眼病治療に実際に役立つ眼科諸流派の家伝の療法を対症療法的に選んで、便覧形式にまとめた眼科治療の手引書とみることができる。

 

 

主な参考文献

1)藤井見隆(纂輯): 眼科医療手引草.江戸刊

2)小川剣二郎:     稿本日本眼科小史.吐鳳堂、1904

 

  


    図1 『眼科便覧』表紙 

 

 

            図2 『眼科便覧』所載眼病療治図 

 

   図3 『眼科医療手引草』表紙

 

 

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  2001