研医会通信 196号 

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2021.8.27

今回は 眼の解剖図についてのご紹介です。

明治初年における主な翻訳解剖書にみる眼の解剖図

 

 

 明治の初年、解剖書の翻訳が行われ、幾種類も出版された。そして、 これまでのオランダやドイツ系医書に加えて英米の解剖書の翻訳が漸次多くみられるようになった。その主なものに、『解剖訓蒙』(図1、2)、『虞列伊(Gray)氏解剖訓蒙図』

(図3、4)、『布列私解剖図譜』『斯密士氏解剖新図』『解剖摘要』『海都満氏解剖図』などがあるが、これらに所載の眼の解剖図、『虞列伊(Gray)氏解剖訓蒙図』について紹介する。

 

 『解剖訓蒙』は文久元年(1861)、米国医師約慧列第(ジョセフ・レデー, Joseph Leidy)の著した『エレメンタリー トリーチス ヲブ ヒューメン アナトミー』(Elementary Treatise of Human Anatomy)を、松村短明、安藤正胤、副嶋之純、村治重厚、横井信之、中泉正等の社友が相謀って分担翻訳し、明治5年(1872)啓蒙義舎蔵版にて発行された。掲出本は明治9年(1876)出版のものである。

 

 本書は全20巻、19冊、四周双辺、毎半葉10行、有界、漢字片仮名交り和文、四針和綴(22×15.5cm)よりなり、各篇の項目は以下の通りである。

第1篇  骨論

第2篇  関節靱帯論

第3篇  筋論

第4篇  営養器論

     口腔、咽頭、胃管、胃、腸、膵、肝、脾

第5篇  脈管論、心臓、動脈、静脈、水脈

第6篇  呼吸器論 咽頭、氣管、肺臓、附属腺

第7篇  泌尿器論 腎臓、副腎、膀胱、尿道

第8篇  生殖器

     睾丸、陰茎、精嚢、附属腺、子宮、卵巣、膣、外陰部、乳房

第9篇  神経論 脳、脊髄、神経

第10篇  五官論 

     視官、〇(鼻+息)官、聴官、味官、〇(にくづきに蜀)官

第11篇  組織論

     骨、軟骨、筋、神経、諸膜、諸腺、歯牙等の組織及び繊維、弾力性、

     繊維軟骨、脂肪等の組織

 

この第10變の五官論はさらに以下の項目により詳述されている。

 鼻、鼻腔、眼、眉、眼瞼、結膜、涙涕機器、眼球、眼球諸筋、鞏膜、角膜、脈絡膜、虹彩、網膜、水様液、結晶連斯、硝子液、耳、外耳、中耳、内耳、皮膚及其附属、表皮、汗腺、皮脂腺、毛髪、爪、味官。

 

 眼については五官論の中に所載され、例えば “眼" の説明に「〔眼〕アイ ハ、〔眼球〕アイボールト、其〔附属〕アッペンデーヂス 即チ眼球ノ諸筋、眉、涙沸機器、眼瞼、及ビ其諸筋ヨリ成ル」という簡単な説明があり、以下、眉、眼瞼、結膜、涙涕機器、眼球、眼球諸筋、鞏膜、角膜、脉絡膜、虹彩、網膜、水様液、結晶連斯、硝子液の各々について解剖学的名称、構造などの記述がある。

 

 本書の附図についてはその凡例に「解剖学ハ図絵ヲ要スルヲ以テ、原本固ヨリ之ヲ出セリ、然レドモ諸本ヲ照較スルニ虞列伊氏ノ図絵尤モ精詳ナリ、故二之ヲ摸写シテ別冊二編成シ、以テ参考ニ供ス」と述べられているように、『虞列伊氏解剖訓蒙図』が『解剖訓蒙』の附図として出版されている。

 

 この図絵は乾坤2冊の折本装よりなり、明治5年に成刻、同9年に松村矩明により著者出版された。

 

 このように本書においては、眼は五官論の中に取り扱われ、〇(鼻+息)、聴、味、觸などとともに記述されている。眼は将に五官の一種に挙げられている。本書は明治初年頃に日本に移入されてきたアメリカ医学における眼の解剖水準を伺い知ることのできる資料の1つと思われる。

 

 

 

主な参考文献

 

1)鈴木要吾: 蘭学全盛時代と蘭疇の生涯. 東京医事新誌局,1933

2)小川鼎三: 明治前日本解剖学史(明治前日本医学史第1巻).日本学術振興会,1955


      図1 『解剖訓蒙』19、20巻 五官論 表紙

 

  図2 『解剖訓蒙』19巻 眼の部分

 

  図3 『解剖訓蒙』 図2のつづき 

 

 

  図4 虞列伊氏解剖図譜 乾坤の表紙 

 

 

       図5  虞列伊氏解剖図譜より 視神経 ほか

 

  図6 虞列伊氏解剖図譜より 眼球の図 ほか 

 

  図7  虞列伊氏解剖図譜より 脈絡膜静脈之図 ほか

 

 

  図8 虞列伊氏解剖図譜より 眼瞼腺之図 ほか 

  

 

 

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  2002