研医会通信 199号 

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2021.11.30

今回は 『解剖摘要』所載の眼の解剖図についてのご紹介です。

『解剖摘要』所載の眼の解剖図

 

 解剖学の翻訳書として、松村矩明(まつむら のりあき)らの『解剖訓蒙』、『虞列伊氏解剖訓蒙図』が明治5(1872)年に大阪医学校官板として出版され、さらに明治9(1876)年に松村矩明、高木玄真の『解剖摘要』(図1、2)が出版された。

 

 『解剖摘要』は米国ペンシルヴェニア学校教師、尼児(ニール)、私密斯(スミス)両氏合著で、1869年鎮行の七科撰述の中、解剖書を松村矩明が口述し、高木玄真によって綴録し、明治9年6月に敬虔堂(高木玄真堂号)蔵版にて新刻された。

 

 本書は全7巻7冊、図式(『解剖摘要図』)一式よりなり、『解剖摘要』は四針和綴(22×15.5cm)、四周双辺、有界、毎半葉10行、木版刷、漢字、片仮名交りの和文で綴られ、図式摘要図は折本装(洋装もある)一式(56折)からなる。ただし、“原本図式ハ殊二細小ナレバ観ルニ便ナラズ、之ヲ十倍二模写セシメテ銅板二鏑(水口臥龍軒)シ、別ニー冊ヲ附ス"と記され、原本図式を基にした図であることが伺える。

 

 本書の内容は以下の通りである。

巻1 骨論 上

巻2 〃  下

巻3 靱帯論 筋論 上

巻4 筋論 下

巻5 消化器篇

巻6 呼吸及血管篇巻7 神経系統篇 五官論

 

 眼は第7巻五官論の中に記され、五官即ち鼻、眼、耳、舌および皮膚などで、眼を眼球および其附属に分け、 さらに以下のごとく詳しく述べている。

 

 眼球、輩膜、角膜、ホンタナ管、脉絡膜、黒色素、ロイシャナ膜、盤渦静詠、毛様靱帯、毛様体、毛様筋、虹彩、瞳孔、瞳孔膜、網膜、鋸歯状緑、黄斑、ジャコビー膜、硝子液、水様液、ペチット管、シンニー帯、結晶レンズ、モルガクニー液、眉毛、ガラベルロ、眼瞼、眼瞼軟骨、結膜、半月襞、メーボーム腺、涙沸瘜肉、涙腺、涙管、涙點、涙嚢、眼瞼軟骨張筋、涙嚢及ヒ涙鼻道、上眼瞼挙筋、四直筋、上下内外ノ直筋、上斜筋、下斜筋

 

 『解剖摘要図』(図3、4)は全158図あつて、その中、眼の解剖図は次の6図である。

 

 縦断眼球之図、毛様筋及ビ毛様靱帯之図、結膜及ビ涙腺之図、眼瞼軟骨張筋之図、眼球諸筋之図、自側面見眼窩之諸神経之図 

 

 訳述者、松村矩明は名を矩明、栖雲と号した。越前大野旧藩の出身で、天保13(1842)年4月13日に中村寿仙の第2子として生まれ、外祖父松邨を養子として嗣く。蘭学を伊藤慎蔵に、英学を大鳥圭介に、医学を佐藤尚中、松本良順に学んだ。明治5(1872)年文部小教授に任ぜられ、大阪医学校長となったが、いくばくもなく廃校となったので、職を辞して大阪に啓蒙義舎を設け、四方の生徒を集めて医学を教授した。また、松村はクリスチャンであり、明治9年7月、高木玄真と共に米国宣教医、A.アダムスと大阪東区高麗橋4丁目に松村診療所を開設し、貧しい人びとを施療し、伝道をした。高木玄真は、美濃大垣旧藩の出身にして、旧きを棄て新しきを求め、文明開化の気運に乗じ、 よく新政府の政体を理解し、有用の人となり、有用の書を著した、と伝えられている。

 

 このように、本書は松村矩明、高木玄真の活躍によって出版されたもので、明治初年のわが国の解剖学に、19世紀半ばにおける米国解剖学の新風を吹き込んだ一書として挙げることができよう。

 

 

主な参考文献

小川鼎三: 明治前日本解剖学史(明治前日本医学史第 1巻の内).日本学士院、1955

福井県医師会: 福井県医学史.福井県医師会、1968

順天堂: 順天堂史上巻. 順天堂、1980

 

 

 

 

 

 

   図1  『解剖摘要図』(折本装)表紙

 

 

    図2 同本 扉

 

     図3 同本 眼科 関連のページ

 

 

      図4   同本 眼科 関連のページ

 

 

 

 

 

  斎藤仁男  中泉行信  中泉行史  2002年