研医会通信  201号 

 2022.1.26
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 「『外療細壍』にみられる眼病療治」  です。

 

『外療細壍』にみられる眼病療治 

 

 天正から慶長年代において行われた外科の主な流派の1つに鷹取流外科がある。今日、その外科の詳細を知ることは困難であるが、『外療新明集』(3巻)、『外療細壍』(3巻)、『外療経験方』(3巻)、『外科方彙』などの伝本によってその概要を知ることは可能であろう。今回は手許にある『外療細壍』を紹介する。

 

 鷹取流外科は播磨国(現兵庫県内)の人、鷹取秀次(藤原秀次)、通称甚右衛門尉が古法(中国、隋・唐医方)を伝えたといわれている。その特徴は、平安時代に大いに行われた人神説(瘡瘍、創傷の予後を卜とする)、祭治説(奇怪な咒文を唱えて病を治す)を用いた点にあるといわれ、 この外科は、いわば隋・唐医方に南蛮流外科(キリシタン版による南蛮医術)を参酌・折衷し、親試経験に基づいた一流派の外科と伝えられている。

 

『外療細壍』は鷹取秀次撰、寺町通松原上ル町、菱屋治兵衛から出版された。上中下の3巻、4針、1冊合綴、横長(12.7cm×19.0cm)本、四周単辺、無界、漢字片仮名交じり和文からなり、各巻の巻末年識は以下のようになっているが、確かな刊年は不明の域を出ない。

 

巻上(24丁) 慶長13年1月19日

巻中(17丁) 慶長14年12月 7日

      慶長15年3月15日

巻下(30丁) 慶長11年10月16日

      天正9年11月22日

 

 また、各巻の目録には、巻上に「蓮根」ほか77個、巻中に「丹毒之見様」ほか52個、巻下に「癰疽」ほか82個の病名、薬名および処方などを掲げ、各項目の下に治療方法などの簡単な解説を記している。

 

 本書のなかの眼科については、巻上の6番目に「眼目」、77番目に「小児疳氣」の項目が設けられ、それぞれ以下のように記述されている。

「六 眼目」

眼目、ヤミ目、ツキ目、爛目、イモライ、寒風二当テ痛。目ノ洗薬ノ方、沈香三分、磐石一

分。杓杞、黄連、黄栢各三分、右煎シ可洗煎様口博有之。赤ク爛腫痛テ難開ヲ治スルニハ、開元錢十二文、黄連三分、荊芥、文蛤、黄栢各二分、沈香一分 右是モ如常煎シテ可洗ナリ。亦爛ル計ニハ青薬ヲ内へ不入外二可塗ナリ。亦自病二爛ニハ猪肉ヲニ三寸寝サマニ糸ニテ目ニユイハリテ、明朝、青薬ヲ付ヨ。猪肉ナキ時ハ串柿ヲ、フクラカシテ、如前セヨ、必ス愈ナリ。

亦風寒ニテ腫ニハ、寒水石、赤白仁、等分二水ニテ付ヨ。亦ツキ目ニハ薄苛葉ヲ、能摺テ茶碗皿二、イサセテ、薇ノ茎ノ中ホトヲ、本末ヲ去テ、霜ニシテ、前ノニ入塩少加ヘテ、紙ニテコシテ置ナリ、入時二是ヲサス。亦苕(一種ノエンドウ)ノ葉ヲモミ、絞り汁ヲ入ル妙ナリ。亦目耽目、イモラトテ目ノフチニ出物ニハ水皈ノ汁妙ナリ。亦小児疱瘡ナド目ニ入テ星有ルニハ、焼カヘシノ明礬少サス妙ナリ。

「七十七 小児府氣(疳司)」

小児疳氣目ニ入テ不見ニハ犬ノ肝ヲ乾末シテ丸ニシテ用ユ。

 

 このように本書においては、簡単な眼病治療が述べられている程度で、外科書であるが手術療方より薬治療方が主に行われていたことがうかがえる。

 

 本書には諸病の病論、薬方および治術を論ずるほか、丹毒之見様、膏薬之用い方、練り方、針之事なども記載し、油薬、『是ハ南蛮人用ヒル薬ナリ』とし、西洋流医方も兼ね用いていることが読み取れる。

 

 このように本書は主として中国隋・唐医方をもとにし、わが国古来の医方と南蛮流外科を参酌した簡易外科療方書の1つとみることができる。

 

 

●主な参考文献

1)竹岡友三:  医家人名辞書. 259、南江堂、1931

2)富士川游:  日本医学史. 209、 日新書院、1943

3)古賀十二郎: 西洋医術伝来史. 20、日新書院、1943

4)藤井尚久:  明治前日本医学史. 5巻. 著名医略伝.345、日本学術振興会、1957

5)大鳥蘭三郎: 明治前日本医学史. 4巻. 769、日本学術振興会、1964

6)阿知波五郎: 近代日本外科学の成立. 34、日本医史学会、1967

7)富士川游(小川鼎三:校注): 日本医学史要綱1. 平凡社、1974

8)飯島裕三:  学習院高等科紀要. 第1号. 2003

 

 

 

図1『外療細壍』表紙

 

 

図2『外療細壍』巻上目録1

 

 

図3『外療細壍』巻上目録2

 

 

 

図4『外療細壍』巻上目録3

 

 

図5『外療細壍』巻中目録1

 

 

図6『外療細壍』巻中目録2

 

 

図7『外療細壍』巻中目録3

 

 

図8『外療細壍』巻下目録1

 

 

図9『外療細壍』巻下目録2

 

 

図10『外療細壍』巻下目録3

 

 

図11『外療細壍』巻末刊記

斎藤、中泉、中泉 2003