研医会通信  203号 

 2022.3.25
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この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 「馬島明眼院に描かれた名画 」 です。

 

馬島明眼院に描かれた名画 

 

 愛知県海部郡大治町馬島に所在する天台宗明眼院の源は、五太山安養寺密蔵院の末寺で、桓武天皇の延暦21(802)年の草創にして、聖円上人開基の霊場と伝えられている名刹である。

 

 南北朝時代、元弘・建武の騒乱にあい兵火によって焼失したが、中興の開祖と称せられる清眼僧都によって、延文2(1357)年に医王山薬師寺として再興された。その附属する塔頭、蔵南坊において眼病の療治を始め、代々法灯が受け継がれた。その後、清眼僧都より第13世円慶法印の代、寛永9(1632)年に後水尾上皇の第3皇女の眼病を治療して平癒をみた。その功により蔵南坊は明眼院という称号を賜った。

 

 かくて清眼僧都によって創始された眼病治療所は尾州馬島、馬島明眼院、あるいは馬島流眼科の名のもと盛んとなり、文化、文政年代には筑前恵美の田原流、信濃諏訪の竹内流、武蔵江戸の土生流と並んでわが国の四大眼科の1つに挙げられたほどで、今日の名が広く世に知られていることは周知のとおりである。

 

 旧馬島明眼院には、かつて多くの貴重な古文書および宝物類が所蔵されていたといわれ、そのなかには円山応挙(1733~1795)の絵画が含まれていた。旧馬島明眼院の書院障壁画として知られているものは、老梅図、芦雁図、老松図および朝顔狗子図などである。

 

 この書院に掲げられた老梅図の特色について、「この梅図の障壁画は応挙が大障壁画の製作において、晩年は特に画中の空間と室内の空間を一体化させ、眼前に襖があるのではなく、自然界の風影そのものが存在するかのような立体的空間表現を狙っていたが、明眼院の梅図は室内の一角にあたかも梅の本が生えていて、四方に立体的に枝をのばしているかのような二次元構成となっている」(佐々木丞平、佐々木正子:円山応挙研究.研究篇)と述べられている。

 

 このような応挙の大障壁画はいつ頃、 どんな事情で旧明眼院に描かれたものであろうか。

 

 応挙は安永年間(1772~1780)から天明年間(1781~1788)および寛政初年にかけて精力的に絵画の製作に取り組み、特に皇室や大寺院(大乗寺など)との関係が深まり、絵画製作が活発化したと伝えられている。

 

 天明4(1784)年、応挙が52歳のときの作として、前述の障壁画が旧明眼院に描かれている。当時の明眼院は眼病治療を始めた馬島清眼僧都から数えて第21世円海僧正(~1798)の頃で、馬島流眼科治療所として大変有名であったと思われる。

 

 応挙は晩年の寛政5(1793)年頃から病気がちで、眼も患い、眼病治療のために馬島明眼院との関係も深められたのではなかろうか、 と想像される。しかし、応挙は眼を患い視力が落ちて歩行も困難になり、手もとも不自由になりながらも、弟子(駒井源埼など)たちの支えもあって、絵画の製作に最後まで情熱を燃やし続けたと伝えられている。

 

 もと明眼院にこのような円山応挙の大障壁襖絵が描かれていたことは、当時の馬島明眼院がいかに隆盛であったかを物語るとともに、応挙が眼病治療を受けた寺院であつたかも知れない。

 

 この旧明眼院の書院障壁画は現在東京国立博物館の庭園にある建物、応挙館内に一括して保管されている。応挙館の説明書によると、「明眼院の書院は寛保2年(1742)に建てられ、後に東京品川の益田孝(鈍翁)邸内に移築され、昭和8年(1933)に博物館に寄贈された。室内の障壁画が天明4年(1784)に円山応挙が描いたものであることから応挙館と呼ばれている」とある。

 

主な参考文献

1)川崎三郎:円山仲選.日本百傑伝第10編.博文館、 1893

2)小川剣三郎:馬島明眼院略伝.中外医事新報No.457:6163、中外医事新報社、1899

3)小川剣三郎:橋本日本眼科小史.吐鳳堂、1904

4)長田櫂次郎:徳川三百年史第4門(中巻)裳華房、 1905

5)日本畫大成.第12巻. 東方書院、1931

6)大百科事典.第24巻. 平凡社、1940

7)日本医史学会: 資料でみる近代日本医学のあけぼの. 便利堂、1959

8)東京国立文化財研究所: 美術研究No 36.吉川弘文館、1973

9) 野田 昌: 馬島流眼科と明限院. 大治町役場、1976

10)内藤慶兼: 全国目の神仏ご利益帳.東京都限科医会会報.No 141:77、東京都眼科医会、1992

11)星野 鈴: 円山応挙.新潮日本美術文庫13.新潮社、1996

12)佐々木丞平・佐々木正子: 円山応挙研究.研究篇。中央公論美術出版、1996

13)佐々木丞平。佐々木正子(監修)、大阪市立美術館(編): 円山応挙特別展―写生画創造への挑戦. 毎日新聞社、NHK、2003

 

 

 

図1 馬島清眼僧都

 

 

      図2 馬島明眼院境内入口

 

 

円山応挙筆 老梅図襖画
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円山応挙筆 朝顔狗子図
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応挙館 https://www.tnm.」p/modules/r_free_page/index.php?id=180

(東京国立博物館のページ)

 

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アルバム 「馬島明眼院」で紹介しています。
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斎藤、中泉、中泉 2004