研医会通信  205号 

 2022.5.25
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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 「古写本『諸病治方書』(仮)の眼目門」です。

 

古写本『諸病治方書』(仮)の眼目門

 

 

 一般に写本とは刊本に対する用語であるが、古写本とは古い写本の意味に用いられ、古抄本、旧抄本などと呼ばれる。そもそも写という文字は、文字を写しとる意味ではなく書く意味であるといわれる。また時代的には、わが国の場合、古写本とは室町時代の末頃までに書かれた本といわれている。

『諸病治方書』は室町時代末期に書かれたいわゆる抄本で、諸々の病気の治療方法を述べた医書である。

 

 掲出本は全1冊(25 cm×18.3cm)90葉、原装表紙、四針袋綴、毎半葉11行、無界、毎行字数不定、漢字片仮名交り、ゾ式和文で、料紙は紙を漉くときに原料に雲母を混入し光沢を出した、いわゆる雲母紙を用いたきらら本である。

 

 本書の内容は、日録によれば以下のような病門63を挙げている。

1.中風、2.寒、3.暑、4.瀑、5.傷寒、6.瘧、7.痢、8.嘔吐、9.泄潟、10.霍乱、11.秘結、12.咳嗽、13.痰、14.喘息、15.氣、16.牌胃、17.翻胃、18.諸虚、19.瘍療、20.咳逆、21.眩量、22.痺、23.頭痛、24.心痛、25。腰脇痛、26.脚氣、27.疸、28.諸淋、29.消渇、36.赤自濁、31.水腫、32.脹満、33.積衆、34.宿食、35。自汗、36.虚煩、37.健忘、38.願病、39.陰療、40.瘤冷、41.積熱、42.失血、43.下血、44.痔漏、45.脱肛、46.遺尿失禁、47.眼目、48.耳、49.鼻、50.口舌、51.牙歯、52.咽喉、53.座疸、54.凛症55.療瞬、56.欠、57.析腸、58.轟毒、59.婦人洞経衆疾論、60。妊育、61.胎前、62.産後、63.小児方。

 

 この病門の分け方は、室町時代後期作と思われる『藪明集』(西忍)や江戸時代初めの『恵徳方』(曲直瀬玄朔)にみられる分類と時代的共通性がうかがえる。

 

 内容は各病門に属する病気の病状を挙げ、主として薬物を用いた治方が記述されている。眼目門には風眼、ヤミ目、ソコヒなどの眼病に対する薬物療法がみられ、室町時代に伝えられた、李東垣、朱丹渓などによって唱えられた医学、即ちいたずらに病気を攻撃するのではなく、身体を温補することを主眼とし、牌胃を滋強し、和平の薬剤を与える療方(腹部敏良: 室町時代の医学史の研究)が行れた、 と考えられる。

 

 本書に書かれている片仮名交リゾ式仮名抄とは、室町時代の国字解で、仮名講説、抄物とも呼ばれ、当時における現代語訳である。そのなかで語尾を「ゾ」と結んでいるところが多いものを「ゾ式」、「ナリ」「・…也」で結んでいるものを「ナリ式」「也式」と呼んでいる。今日では解釈そのものよりも、当時の国語を知る重要な資料として重んぜられている(長澤規矩也:大東急記念文庫、貴重書解題、第一巻)。

 

 このように本書は著者、書名ともに明らかではないが、「ゾ式」カナ抄などの書誌事項の点から推測しても室町時代の古写本とみられる。当時の種々な病気の治療法を記述したもので、当時の治療法の一端をうかがい知ることができる。

 

 

・主な参考文献

1)富士川游(述)、中川恭次郎(編): 日本内科全書第二別録、民間薬.吐鳳堂, 1915

2)長澤規矩也: 大東急記念文庫、貴重書解題.大東急記念文庫, 1956

3)中泉行正: 我国医学の発展と全九集. 綜合医学15: 9, 1958

4)川瀬一馬: 増補古活字版の研究上・中・下. 日本古書協会、1967

5)鈴木 博: 室町時代語の研究. 清文堂出版, 1988

 

 

 

     図1 『諸病治方書』(仮)眼目門 (ゾ式文) 

 

   図2 図1と同書 つづきのページ

 

   

    図3  『恵徳方』(寛永8年版)眼目門 (ゾ式文)

 

 

 

斎藤、中泉 2005