研医会通信  223号 

 2023.11.27
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研医会図書館は近現代の眼科医書と医学関連の古い書物を所蔵する図書館です。
この研医会通信では、当館所蔵の資料をご紹介いたします。
5月からは『臨床眼科』の記事から離れて、いろいろな資料をご紹介しています。

今回は 『長崎土産』です。

『長崎土産』

 本年2023年はシーボルト来日200周年の年に当たるということで、長崎の歴史文化博物館では「大シーボルト展」が企画され(9月30日から11月12日)、関連の講座が開かれました。私も11月4日に行われた梶輝行先生(横浜薬科大学薬学部教授・教職課程センター長)の「シーボルトの日本研究と伊能図をめぐる事件」を拝聴し、シーボルト事件の真相について、新たな情報を得てきました。

 

 そこで、今月は江戸時代の長崎観光ガイドとでもいうべき『長崎土産』を取り上げることにいたしました。

 

 この本は浮世絵画家、渓斎池田栄泉の門人で、江戸で学んだこともある文斎礒野信春が著したもので、1枚の地図と16の絵で長崎の風景や唐人、オランダ人、祭り、建物などを紹介しています。信春は絵も文章も書ける人物であったようで、本の後半には文章による長崎の紹介がなされています。

 

 取り上げられているのは、清朝人、紅毛人、唐船、唐館(とうやしき)、無凢(コンピラ)山、眼鏡橋、蘭船(オランダぶね)、蘭館(オランダやしき)、オランダ婦人、象、大波戸、諏訪社、神事踊子(じんじおどり)、御崎(みさき)、唐寺(とうでら)、媽姐揚(ぼさあげ)で、それぞれ様子がよくわかる絵となっています。

 

 最後の媽姐揚(ぼさあげ)を読むと、中国や東南アジアからやってきた船人らが、その信仰する媽姐の像を長崎に停泊している間、唐寺に移してお祀りするため、銅鑼を鳴らしながら媽姐堂まで行くことなどが記されています。私はかつて、シンガポールの食堂で、棚に祀られた媽姐像がどのようなものなのか、お店の人に尋ねたことがありますが、東南アジアの海で信じられている媽姐は、江戸時代の長崎にも来ていたのだ、と面白く思いました。

 

 今も大通り沿いに鳥居の見える諏訪社のかつての景色など、今ものこる長崎の観光名所の絵を、眺めるのは興味深いものです。

 

追記: 扉(表紙裏)にある魁星印(あるいは文昌帝?)の図柄が、よく見る北斗七星ではなく、持っているものも筆というより、撥のようで、いろいろなバージョンがあることに気づきました。

 

 

                図1 『長崎土産』扉と巻頭の序

 

 

 

 

      図2 同本 地図のページ

 

   図3 同本 眼鏡橋のページ 

 

     図4 同本 媽姐揚のページ